霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記 ★★★★★

霞っ子クラブ
霞っ子クラブ
posted with 簡単リンクくん at 2006. 8.18
高橋 ユキ著 / 多岐川 美伎著 / 長谷川 零著 / 加賀見 はる子著
新潮社 (2006.8)
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熱く人生を語る裁判官、勝手な正義に酔う検事、被害者を虐めまくる弁護士、そしてチャランポランな被告人…。親殺し、詐欺、集団レイプ、放火から強盗殺人まで、平均年齢27歳、裁判所の「アイドル集団」が法廷で目撃した、ドキドキハラハラの犯罪百花繚乱。あの「有名事件」の被告人たちも続々登場。人気ブログを単行本化。

サイッコーに面白かった! 電車の中で何度吹き出しそうになったことか。
本書は、裁判傍聴を趣味とする4人の女の子たちによるブログ「霞っ子クラブの裁判傍聴記」(http://bc.kasumikko.com/)が書籍になったものである。傍聴する裁判の種類は4人それぞれの好みによるものだが、オウムなど宗教系から万引きや置換などの軽犯罪まで多岐にわたっていて、もちろんそれぞれ真面目な裁判なので笑っちゃうというのも不謹慎な気がするがゴメン、笑っちゃうわ。それは視点であるこの4人の女の子たちが裁判を純粋にエンタメとして楽しんでるからだと思う。特定の裁判官のファンだったり、若くて可愛い女検事に萌えたり、矛盾満載な被告人の証言に突っ込んだり、公判中に寝ている検事に注目したりして、とても裁判傍聴記とは思えないうがった見方(ある意味普通の野次馬の見方?)が読んでて楽しいのだ。これを読むと、裁判傍聴に行ってみたくなること間違いなし!


実はわたし、その後の人生に驚くほど何のかかわりもないが法学部出身である。だから当然ながら裁判を傍聴したこともあるし(つまんない裁判だった)、判例集とかも一応読んだことがある。ちなみに判例集は悪文の権化である。これまで見たことないくらいに一文が長い。出来るだけ情報を入れたいにしろ、そこを上手くまとめるのが腕ではないかと思うのだが、そういう書き方をするものだと決められているかのようだ。ま、それもある程度慣れて要点だけ拾っていけばけっこう面白い。だって犯罪の一部始終やその背景などが描かれるのだから、そこにあるドラマは興味深いものがあるのだ。


しかし本書を読めばよくわかるが現実に起きる事件は、安いメロドラマか、ボカンとしてしまいそうなほどアホらしいものか、完全に理解不能なものが多くて、トカジの小説は現実に最も近いものではないかと思える。というのもわたしがこの「霞っ子クラブ」の存在を知ったのは、トカジの「ベイビー、日本の戦後は安かった CHEAP TRIBE (文春文庫)」の文庫版のあとがきに代えて掲載されていた、著者と「霞っ子クラブ」の対談を読んだからだ。トカジの小説はチープな人間の欲望にまみれたチープな事件てんこもりでもう笑うしかないのだが、本書を読めば現実も似たり寄ったりだなぁと思わざるを得ない。


本書のいいところはすごく読みやすいってことだと思う。文章がもともと上手いんだと思うけど、事件のあらましや裁判の経過など簡素にわかりやすく書いてあるし、ツッコミどころもナイスで絵文字も効果的。もちろん笑えるだけじゃなくて、やるせなさや嫌悪感を感じる裁判も取り上げてあって、そういうものに対しても彼女たちの感想は素直だ。だから好感を持てる。今はブログのほうでも読んでるけど、また書籍化されたら買っちゃうかも。まとめて読むと同じ裁判の流れもわかりやすいし、紙になったもののほうが読みやすいし。「裏」判例集として、司法試験を目指す若者たちにも読んでほしいな。裁判ウォッチャーたちにいかに見られているか知るのもいい勉強になるかと(笑)。あ、あと超ド級の事件でない限り送検後のことは報道されないから、「あ〜あったなぁそんな事件」と寂れた脳の片隅に引っかかってた事件のその後を知ることが出来るのも本書のひとつの楽しみ方だろうと思う。


余談だが、もひとつ個人的な話をすると、数年前は仕事でよく霞ヶ関に行っていたので本書は余計に楽しめた。ここに書いてある通り、農林水産省の食堂はやたら安くて美味しいのだ! これは農林水産省という立場を利用して常に新鮮食材を市場から上納させているに違いないと、今も疑っているのだが…。そして食堂と同じく地下には闇市のような商店の並びがあるのだが、これまた市場に較べると格段に安い。職員(高給取りの本庁職員!)だとさらに安く買えるらしく、世の中の不条理を感じたものだ。ま、でもご飯食べにだけでも入ることは今も出来ると思うんで、興味ある人は物見遊山的に出かけてみるのもいいと思いますよ。


そしてもひとつ、一応読書好きとして反応してしまうネタがひとつありました。渡辺淳一氏の名前が本書に取り上げられた裁判の中で出てきます。どんな事件でしょう?………やっぱりというかなんというか「痴漢」です。一応断っておくと、渡辺淳一が痴漢したわけじゃありませんよ。痴漢に関する裁判で頭のおかしい弁護人が「痴漢なんてたいした罪じゃない! いたずらみたいなもんだ!」と時代錯誤な弁論を繰り広げ、事件にはまったく関わりはないのに証拠物件のひとつとして提出したのが渡辺淳一の文章だったというわけ(笑)。その弁護人がいうには……

本日証拠として提出した渡辺淳一の文章『男が神に与えた特権』では、「痴漢は褒められたものではないが、厳罰ほどではない」と書かれております。

ごめんなさい、爆笑してしまいました。こんなものを証拠として提出する弁護人も相当だけど、渡辺センセもこんな意外なところでそのイタさを笑われることになるとは思いもしないでしょう。アーメン。