キサトア(小路幸也)★★★★☆

キサトア
キサトア
posted with 簡単リンクくん at 2006. 8.19
小路 幸也作
理論社 (2006.6)
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この著者の小説を読むのは「東京バンドワゴン」以来二冊目だ。初めて読んだ「東京〜」がすこぶる好みで読後感のいい家族小説だったので、過去の作品も読もうと思ってたが、気付いたら新刊が出てしまっていた。しかもヤングアダルト小説だったから驚いた。まだまだ初心者なのでわからないが、作風の幅広い作家さんなのかしら?
時折読み始めてすぐに「あ、これはすごく好きなタイプの小説だ」と確信できる本がたまにある。これもそうでしたね。
主人公の少年アーチは徐々に色盲となりつつあるものの、そのたぐいまれなる芸術の才能は世界からも認められている。アーチにはキサとトアという双子の妹がいる。キサは日の出とともに目が覚め日の入りとともに眠りにつき、トアは日の入りとともに目が覚め日の出とともに眠りにつくという特異体質。三人の父親であるフウガさんは、風の流れを読むことが出来る<風のエキスパート>だ。島に越して来たこの4人の家族を島民はあたたかく迎え入れ、とくにキサトアの双子は昼夜にかまわず可愛がられていて……。
ちょっとしたことをきっかけによそ者扱いする排他的な感情、子供たちが初めて知る島の忌まわしい過去、そういうものをきちんと描きながらも、この物語はとてもあたたかい。社会の中で生まれざるを得ない悪意を、避けることなく柔らかく包んで描いてくれていると思う。YAならこのくらいの優しさがあっていいと思うし、大人向け子供向け関係なく、読むもののこころを柔らかくする小説はちょっと質が違うなと思った。