ガープの世界〈上〉 (新潮文庫) ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)(ジョン・アーヴィング)

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫) ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)
名付けてもうなかったことにしようかしら企画、忘れた頃にやってきます。


現代アメリカ文学を代表する超有名な一作ですね。本国で発表されたのが1978年ということで、大ベストセラーとなったようですが、世代的には乗り遅れた感あります。というわけで、あらためて。

これはガープという男の短い一生が、濃密にドラマチックに描かれたもの。ガープの母親である看護婦のジェニーがちょっと変わっていて、とにかくセックスに対する欲望が一切ない、むしろ嫌悪している、でも子供がどうしても欲しい。というわけで(どんなわけだ)、死期の迫る負傷兵で意識が幼児退行化しているガープという名の兵隊さんに狙いを定めたジェニーは彼と一度だけセックスし、それで生まれたのが主人公ガープである。ジェニーが看護婦として住み込みで勤務する寄宿学校でガープはすくすくと育ち、作家を志すように。卒業後はジェニーとともにウィーンへ移住するも、ガープはなかなか小説を書くことに専念できない。一方でジェニーは自らの半生をつづった作品『性の容疑者』を出版、折しもフェミニズム運動台頭の時代にあって彼女の作品は非常に注目されることに……。まぁその後もいろいろあるわけです。ガープは作家デビューを果たし妻と子供にも恵まれ、しかしお互いの不倫が騒動となったり、悪夢のような事故で大きな代償を払わされたり、それをネタにした小説がバカ売れしたり、母のまわりにある政治的ないざこざに巻き込まれたり……。

もはや昼ドラの原作として採用されてもおかしくない波瀾万丈ぶり。なのにこの物語は、単に壮大なメロドラマとは言い切れない深みがある。親子の物語、夫婦の物語、作家にとっての小説の重み、当時のアメリカの国内情勢まで、そのすべてに深く切り込みながらもこの物語は読んでいて楽しい。もっとシンプルにしても同じように高く評価されたのかもしれないけど、これだけ盛り込んであるからこそたくさんの読者を取り込めたのだろうなと思う。
解説(訳者/筒井正明さん)によれば、実験的な小説が多いなかでアーヴィングはあえて小説本来のブロットの復興を目指そうとしたらしい。腕があるからこそできることだよね。それにわたしもやっぱ、小難しいものより、読んでいて楽しかったり続きが気になってしょうがないもののほうが百万倍もいいもの。

というわけで楽しく読めた一作でした。他の作品もぜひ読んでみたい。