ハピネス(嶽本野ばら)★★★★

ハピネス
ハピネス
posted with 簡単リンクくん at 2006. 8.18
岳本 野ばら著
小学館 (2006.8)
通常24時間以内に発送します。


「私ね、後、一週間で死んじゃうの」
そう告げた恋人は、それまで憧れつつも踏み込めなかったロリータ完全武装で主人公の前に立つ。こころの整理はつかないまま、残りの一週間は思うままに生きたい、そんな彼女の願いを叶えようと努力する「僕」……。
これは……野ばら版「セカチュー」? 小学館は誰かが死ぬ小説じゃないと出版したくないのかしら、なんて嫌みのひとつも言いたくなるところだ。
でもそんな勘ぐりを吹き飛ばしちゃうのがさすがな野ばらワールド。まぁまず「若くて美しい少女の死」というのが、野ばら作品の根底にある甘美さとまったく矛盾しないというのもある。そして今の日本では手垢がつきまくった「恋人の死」というある意味難しいテーマにこの上ないほどストレートに挑みながら、ロリータ精神とそのストイックさがそのテーマに負けず劣らす張り合ってる印象すら受ける。安易に読者の感情をあおることなく、むしろ乾いた距離を持って最後の一週間が描かれる。あふれる感情を、ぎりぎりまで押し込んでる。だからこそ切ない。
身近な人の死、というものをテーマにした作品としてはそれほど目新しさはないし、むしろこれでもかというほどストレート。でもちゃんと野ばら色だ。こんだけ手垢のついたテーマを選ぶならば、せめてこのくらいの力量は欲しいなと思うよ。