わが悲しき娼婦たちの思い出 (Obra de Garc〓a M〓rquez (2004))(G・ガルシア=マルケス)★★★★★

ガルシア=マルケスといえば『百年の孤独』ですよね。百戦錬磨の本読みたちが絶賛する、現代文学の金字塔。わたしはまだ読んでないんですけどね。ちょっと難解なイメージあるし、もうちょっと純文学に慣れてからで、なんだったら生きてるうちに読めればいいかなくらいに思ってたんですが。
翻訳されたばかりの本書は薄いし読みやすいそうなんで、あっさり手を出してみました。


冒頭の一文がコレです。

満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた。

どんだけエロジジィなんだ(笑
でもね、これは恋愛小説なんです。しかもいわゆる<老いらくの恋>なんかじゃない。初めての恋に、みっともないほど右往左往するひとりの男の物語だ。
もちろん死期が近いということは主人公自身とその恋心に影響を及ぼしてはいるものの、「それどころじゃない」かんじがひしひしと伝わってきて、妙なおかしみもある。
九十歳の老人と十四歳の少女ですよ? もうキモさを通り越して警察を呼べ!ってなはずなのに、いつしか読みながら応援してしまってる自分に気付く。だって最初で、そしてたぶん最後の恋なんだもの。気の済むまでじたばたしてほしい、そう願ってしまうのだ。


主人公が若かりし頃に熱心に通った娼婦に偶然再会し、悩みを打ち明ける。仕事は辞めて中国人と結婚し普通の家庭を築いた、もう七十三歳だが恰好いいそのもと娼婦の言葉がまた素敵だ。

今すぐかわいそうなその子を探しに行きなさい。嫉妬のあまりあなたが勘ぐったことが本当だったっていいじゃない。とにかく精一杯楽しんでいきなさいよ。それだけは人からとやかく言われる筋合いはないんだから。でも、いいこと? 年寄りくさいロマン主義にひたってはダメよ。あなたは臆病で、外見もぱっとしないけど、その代わり悪魔が馬も顔負けするような一物をくれたんだから。その子を起こして、それで全身を貫いてやりなさい。まじめな話、魂の問題は横へ置いて、生きているうちに愛を込めて愛し合うという奇跡をあじわわないといけないわ。

あぁもうわたしが男だったら、ぜひこの姐さんにお世話になってみたいです!
恰好いいですよね。でもこの姐さんの言葉は、この小説全体を貫いてるものを一番わかりやすく表現してくれている。
人生初の、そして残り少ない時間が後押しするこの恋は、突っ走るしかない、のであります。
なぜか、青春。
そんなラストスパートのこの恋物語は、読んでいてとても羨ましくて、一方で胸が痛くなった。


ちなみにこの小説は川端康成の『眠れる美女』に着想を得て書いたものらしい。家の本棚を探してみたけどなかったので、読んだことあるかないかもわかんない。カワバタとかミシマとかダザイとかの有名作家は大学時代にまとめて読んだもんだけど、一作家につき5〜6冊くらい読むともうわかった気になっちゃって全作品は読んでないんだよね。だからこの『眠れる美女』もやっぱ読んでないのかもしれない。川端康成はけっこう好きだったんで10作近くは読んでると思うんだけど、今も覚えている当時の感想は「このオッサン、相当な女好きだな」てことくらい(←ヒドい)。う〜む。そこらへんの作家、今読み返すと面白いかもしれない。やってみようかなぁ。