花の名前 1 (花とゆめCOMICS)(斎藤けん)

花の名前 1 (花とゆめCOMICS)

花の名前 1 (花とゆめCOMICS)

これまでそんなに縁のなかった白泉社を見直しております。そんなに有名じゃない人の作品でもなかなかレベルが高い。
この斉藤けんという人の作品も、たまたまララ本誌で読んだ読み切りがちょっと心に引っかかったから手にしたわけで、この『花の名前』という作品もララ本誌ではなくララデラックスのほうで連載されていたようなので、まだ白泉社の中でもそんなにメジャーじゃないとは思うんですが、これがなかなかの作品で。むしろあの読み切りに何かを感じた自分を褒めてあげたくなりました。


主人公の蝶子は高一の冬に両親を交通事故で失い、親戚をたらい回しにされたあげく十二歳年上の父親の従兄弟に預けられることに。水島京という初めて会ったその遠縁の男性は、直木賞作家で気難しいタイプ。さぐりさぐりの二人の生活は、京の時折の優しさと蝶子が庭に咲かせる花で、徐々に穏やかで優しい時間に変わっていく。成長するにしたがい京への気持ちが恋に変化していくことを蝶子は自覚するが、普段はぶっきらぼうでも優しい京が見せる時折激しい拒絶に翻弄されて………。


互いにトラウマを持つ二人のピュアな恋物語ってやつですよ。ボロボロだった自分を救ってくれたからこそどこまでも京を慕う蝶子と、今だ過去の呪縛から抜け出せずに蝶子を引き寄せようとしては突き放す京。
そのピュアさは『君に届け』の爽子を越えてしまったんではないかという蝶子の健気さありえねえとか、これは昼ドラかとツッコミたくなるようなドロドロしい過去は安易ささえ感じてしまうとか、まぁいろいろ言いたいことはあるんですが。
でもとにかく見せ場でのモノローグが上手くてぐいぐい引き寄せられる。それに脇を固めるキャラが愛情たっぷりに描かれていてそれがいい。自称・京の親友で編集者の秋山とか、蝶子に恋する唐澤とか、蝶子と唐澤が属するサークル「大正文士の会」の面々とかもね。
こういう言い方は非常に失礼だとわかってはいるが、『ハチクロ』に近い作品だと思う。とくに技術的な面で。モノローグの効果的な使い方だとか、シリアスなシーンに対してのサブキャラでちょっとホッとさせるシーンを入れる緩急だったりとか。その洗練さで『ハチクロ』に及ぶことはないけど、それだけの技術を持って逆に重くて下手すれば古いと捉えられかねない、その実女の子を萌えさせる王道のストーリーに真っ向からぶつかってるところが良い。時代は変わっても女の子の心をガツンと揺さぶるそれは変わらないんだろうなと改めて思った。
最初に引っかかった読み切りの作品もそうだったけど、この人の書きたい物語は、わたしが読みたい物語にとても近い。だから頑張ってほしいです。もっと人気が出て本腰を入れて書く長編が、わたしの少女マンガのベスト10とかに入りますように。仮定だらけの勝手な願望です。


ちなみに全4巻。完結してます。