遺す言葉、その他の短篇 (海外SFノヴェルズ)(アイリーン・ガン)★★★★★

遺す言葉、その他の短篇 (海外SFノヴェルズ)

遺す言葉、その他の短篇 (海外SFノヴェルズ)

今月号の「SFマガジン」で紹介されていた著者のインタビューやエッセイ、また彼女の作品についての書評がとても興味深かったので、読んだことない作家だけど楽しみにしていた。

期待にたがわず、面白かった! というかわたしは今だにSF(とくに翻訳モノ)を読むのが苦手で、読むスピードが格段に落ちちゃうし、そのなかでも短編集は読み通せないことが多いんです。集中力が持続できないんですよね。でもこの短編集はほぼ1日で読んじゃいました。


コピーライター→マイクロソフト初期の広報担当→作家、という風変わりな経歴を持つアイリーン・ガン。アヴラム・デイヴィットスンを敬愛し、彼の死後、彼の息子を手伝って遺品を整理した時のことがもととなっている「遺す言葉」が、短編集の邦題になっている。アヴラム・デイヴィットスンって<奇想作家シリーズ>の『どんがらがん』の人だよね。『どんがらがん』を読んだとき「この世のあらゆる小説をぐるぐるかき回して適当な網でこしたものが、この著者の頭の中に乱雑に詰め込まれてるとしか思えない」と感想に書いたが、なるほど、アイリーン・ガンの唯一の短編集もまた、まったく方向性の読めない作家であると思う。


でもね、なんか優しいんですよ。異星人とのコンタクトや、「if」を用いたもうひとつのアメリカの未来、痛々しいまでの人間の進化、などを描きながらも、視点が地に足がついてるかんじ。突拍子もないストーリーでありながらも、感情はリアルで、その結末までのバランス感覚は、まるで自分たちの日常と繋がっているかのような錯覚を起こさせるのだ。


めちゃめちゃ寡作である(四半世紀で12編?)にもかかわらず、この短編集に収められたうち二編がヒューゴー賞候補に選ばれ、「遺す言葉」はネピュラ賞を受賞している。かなり贅沢な短編集だと言えるだろう。でもそういう対外的な評価を別にしても、個人的にとても好きだった。他の作品がないのが寂しいくらい。また帯にはコニー・ウィリスケリー・リンクなど、とっても好きな作家の賛辞が載せられているので、これまた嬉しい。まだまだ苦手意識のあるSFだけど、今後は女性作家を中心に読んでいこうかなと思った。