そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド(豊崎由美/アスペクト)

そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
ほぼ毎日同じ時間に出没しほぼ毎日何かを購入し金額が2000円を超えると領収書を求めるわたしが、今日も同じ書店でこれをレジに出したとき一瞬含みのある視線を感じたのは気のせいだろう。「おまえがな」という心の声が聞こえたのも気のせいだろう。きっと気のせいだ。ははは。
さてさて発売を楽しみ待ってたトヨザキ社長の書評集であります。単体での書評集はこれが初めてだよね。「文学賞メッタ斬り」も「百年の誤読」も対談形式だったし。文芸誌はもちろん流行通信、プレジデント、TVブロス婦人公論、地方新聞など多岐にわたるジャンルの媒体に掲載されたトヨザキ節がまとめられた一冊であります。
豊崎由美の毒舌が大好きなファンも多いと思うが、この本は基本的に著者の愛する作品へのレビューが大半を占める。文芸誌以外の媒体が多いせいかもしれないが「この小説ホントいいから読んでくれぇ!」ていうノリのレビューが多いかな。
しかしこの豊崎セレクト……笑っちゃうほどに玄人好みなんだよね。国内小説はまだ比較的わかった(とはいえ名前すら知らない人もいたな…)けど、海外小説は9割5分お手上げ。ホント幅広いんだよね。しかしまぁ文芸誌を除けば他の媒体のニーズにはまったく沿ってない気がするが、そこで日和らないアンタが好きだ!
守備範囲が広いから必然的に外野を担当することが多いんだね、この人は。「おーいここにもあるぞ!」と叫ぶけどホームまでその声はなかなか届かない。でも豊崎由美は叫び続ける。マイナーな作家でも売れなさそうなタイプの作品でも本当にそれが良ければ叫んでくれる。ホームに届いても届かなくても、ちゃんと見つけて叫んでくれる。やっぱり声は届かないけど、こんな人がいてくれてよかった。
さて、こういう信頼できるブックガイドを読むと、読みたい本が多くなって困ってしまいますねぇ…。わたしが苦手な純文学も、読めるようになりたいなぁ。


……と、最後の最後まで小説LOVEなのほほんとしたレビューで終わるのかと思いきや、最後の最後に超毒舌が待ってましたよ。全国の桃メッタのファンの皆さんのための袋とじ! 渡辺淳一の逆鱗に降れ掲載紙「Title」が廃刊に追い込まれたという伝説の書評「読者諸君!アホ面こいてベストセラーなんか読んでる場合?」が一部収録されているのだ。わたしは初めてこれ読んだんだけど…………すごいね。無責任に読めば爆笑なんだけど、これを書く豊崎もすごいしそれを載っけちゃった編集部もすごい。自殺行為? だって失楽園だけじゃないんだよ? 当時のありとあらゆる馬鹿ベストセラーを罵倒しまくった評論なのだ。斎藤美奈子のように上手く「皮肉る」のではなく「罵倒」だからね。格好いいぜ社長! トヨザキ社長のホンネが読める媒体が誕生してくれますよーに! と願わずに入れないワタシでした。