どうで死ぬ身の一踊り(西村賢太/講談社)★★★★

どうで死ぬ身の一踊り
こないだの芥川賞の候補作のひとつですね。メッタ斬りコンビが二人とも気に入ってたことに加え、さらに今月の本の雑誌でトヨザキ社長が絶賛してるコラムを読んだら読みたくなったので挑戦してみました。
で、これがおどろいた。この作品がもつインパクトと濃さにノックアウトです。
藤澤清造という大正期の作家に傾倒した男が主人公で、その主人公は作家自身がモデルであるらしく、つまりこの小説は私小説というジャンルに分けられるよう。で、その主人公の男がひどいんだわ。生活費はすべて同棲してる女のパート代でまかなうヒモ状態で、自費出版しようとしてる藤澤清造全集の資金も女の実家から出させる始末。しかも暴力ふるうし。さらにこれまでモテない人生を送ってきたために今の女への執着度高いし。最悪だ。
でもねぇ、その情けなさ、惨めさが妙にリアルで可笑しくて、ぐいぐい読まされちゃうんだよね。とくに女とのケンカのシーンが最高。男が最終的にキレて暴力ふるうことはわかった上での口喧嘩はまるで、その瞬間までの二人の共同作業のようにさえ見える。奇妙な緊張感ただようシーンだ。
勝手に藤澤清造の墓の隣に自分の墓を建てちゃうくらいの傾倒具合といい、軌道修正不可能と思える人生のひとコマを自身で上等な小説として昇華してしまえる才能といい、ただ者じゃないよな、というのがひしひしと伝わってくる作品だった。純粋に面白かったし、個性の際立ち具合はとんでもないです。次の作品も出たら買います。
それにしても表紙のタイトルは藤澤清造の文字だし、発行日は藤澤清造の没日だし、ほんっと大好きなんだね。しかしちょっとネットで検索かけてみたけど藤澤清造って本当に知られてない人なんだな。Wikipediaにもないし。amazonにもないし! ま、できたら一作くらい読んでみたいと思うほどに興味が出たけど、ないならしょうがないやね。