この10年の小説を徹底検証!/作家ファイル1998〜2008/『文藝 2008年 05月号 [雑誌]』より

文藝 2008年 05月号 [雑誌]

文藝 2008年 05月号 [雑誌]

購入目的は「この10年の小説を徹底検証!」という斎藤美奈子×高橋源一郎の対談です。それがまた期待にたがわず面白かった。なんか、たいして気にしてるわけではないけど、頭のどっかに引っかかっていた違和感みたいなものが少し解けた気がする。
わたしの解釈混じりなんで間違ってるかもしれないけどこの二人の対談を要約すれば、この10年で出てきた小説家でめぼしいのは、それまでの近代小説とパソコンで言うところのOSが異なるのだと。小説そのものが、一個人とそれ以外との接触を描くものだとするなら、これまでのように「それ以外」の世界が隠れてしまった世界の中で、小説で描かれる関係性は過剰にピンポイントに「解像度」が高くなったのだと。「『私』がどこにあるか」を探す小説を小説としてみる古いOSは、そんなもの探すそぶりさえしない新しい小説を「人間が描けていない」と蹴り落とす。だけどそういう小説の読み方は、なにか重要なことを引き出すのが読むことだと教える国語教育に属するもの。誘導されるような行間なんてない、書いた言葉それがそのままだという現代小説は、それこそがリアリズム。
うーん確かに、そうなんだよね。何が面白いって説明できる小説は感想書くのも楽。困るのはすっごい面白いのに、どう面白いって簡単に言葉にできない小説、だったりする。それでも熱意があれば一生懸命ひねり出して言葉を重ねるけど、それが的を当てているかというとそうではないんだよね。つまりはそういう面白さについて、共通言語がまだないんだと思う。この対談の言葉を借りるなら、読むのも書くのも「旧OS」だから? 小説というのはひもとく必要がないものだと、それが共通の認識になれば新しい共通言語が産まれるかもしれないけど。でも難しいとこなんだよね。「旧OS」的な装いもあるし、無意識な「旧OS」もあったりして、もうここまでくると「誤読」じゃないよなって気もする。「旧OS」ながら面白いと感じて、でもそれを説明しようとして失敗するのがそれこそ「旧OS」そのもの、みたいな? もしかして百年後に振り返れば、今のこの時期は「過渡期」みたいなものかもしれないし、だけど百年後も多分「旧OS」的な小説は健在だと、そういう気もする。
ま、わかんないけどねー。



そして意外にも面白かったのがこの10年でデビューした作家を並べた作家ファイル。何が面白いって、作家の顔をこんなにまとめて見られること。昔に比べたら作家の顔が露出する機会は多いと思うけど(その意味においては『ダ・ヴィンチ』の功績は大きい。あんま読まないけど)、それでもこんなにまとめて眺めることってないんだよね。
というわけで作品とか無視で単に顔写真の感想。あくまでここに載せられた写真の、ですが。
概して女性の作家はのっぺりした顔の人が多い。そして「職業何?」って聞いたら「小学校の先生」、「あー、っぽいね」というかんじが近いかな。昔ながらの文学少女のイメージが裏切られないのがあまりにそのままで、逆にちょっと面白い。そのなかで群を抜いて美しいのは金原ひとみ。作家としてくくられると異形と感じるほどに。そして綿谷りさ。男ウケ親父ウケ抜群の清楚さが写真からも漏れております。こんな顔であんな小説書くんだから、まったく小説家という奴は。話題の川上未映子は作家ファイルのほうでは斜め下から撮られた横顔の写真でよくわからないんだけど、中原昌也との対談絡みで同誌にはたくさん写真出てまして、アーティスト系の美人さんですね。あと小説家ではなく歌人さんは、独特の雰囲気ある人が多いかな。
男性作家はバラエティに富んでますね。おおざっぱに分けると、一見ちょっと怖い無頼系、世渡り上手そうな会社員系、平日昼間に公園のベンチでボンヤリしてそうな人系、でしょうか。作家というより編集者やプロデューサーっぽい顔した人もちらほら。大崎善生とかもと編集だって知ってたけど、改めて写真見て<編集者っぽい顔>ってあるんだなって逆に改めて知りましたから。若い人は好青年系かアーティスト系のどちらかなかんじ。そういえば好青年代表の伊坂幸太郎がここでは顔出ししてないんですよね。そろそろ露出を抑える方向なんでしょうか。メディアミックスが進んでますからね。
それにしてもこんな場でも異彩を放つ西村賢太。すいません、なんにも面白くないこの作家ファイルのなかで、この人の写真見た時だけ吹きました。他の人の写真はそのまま『ダ・ヴィンチ』のカラーページとかに載ってもおかしくない写真なんですよ。ちゃんとカメラマンが撮ったような。なのにこの人の写真は………! なんか用事があってやってきた田舎の狭いビジネスホテルで、昼から酒飲んでたもんだから夕方くらいから寝てた親戚の伯父さんが夜中に起きだしてあー目冴えちゃったまた飲むかというところを、使い捨てカメラでなんとなく撮ったってかんじ! 空気清浄機みたいなのあるから自宅かもしれないし、首もとがびろーんと伸びたようなシャツは良く見れば普通にVネックっぽいんだけど。そう見えてしまうのがさすが、西村賢太ですよ。小説で吹かせるだけでは足りないのか! やっぱ好き!



そういうわけで、二大特集がそのまま楽しめましたのでオススメです。国内小説のめぼしいのは読んでるって人は作家ファイルパラパラ見るだけでも楽しめるだろうし、高橋斎藤対談もじっくり読む価値あり、中原川上対談も気安いような探りあうような感じで興味深いし。なぜか、ああもっと小説読みたいなぁと、そう思ってしまいました。