ぼくのキャノン(池上永一/文芸春秋)★★★★★

ぼくのキャノン
沖縄の離島のある小さな村が舞台。村を見下ろす高台にあるキャノン砲をあがめる不思議な習慣があり、潤沢な資金でもってキャノンを祀る巫女・マカトオバァが村を実質的に支配している村だ。キャノン様とはいったい何なのか。なぜオバァは開発を頑に拒むのか。そしてなぜこの村には湧き出るかのような資金があるのか……。太平洋をはさんだ大国で起こった同時多発テロが、なぜかこの小さな村の秘密を暴くカギとなってしまう。復讐心を持ってこの村の開発を執拗に狙う建設会社、村の金脈を探し当てようとする元米軍兵士、何も知らずに沖縄戦という村の過去に近づく子供たち、そして命がけでこの村とその「秘密」を守ろうとするマカトたちが入り乱れ、平和な村はまたしても戦場になってしまうのか…。


面白かった!! バランスのいい作品でもあると思う。池上作品らしいキャラのたちっぷりも楽しみつつ(「コトブキ♡」とか?)、ストーリーはシンプルながら骨太で。
沖縄戦によって壊滅的な被害を受けた村を立て直そうと誓い、その「秘密」のために人生を捧げた三人の子供たち(マカト、樹王、チヨ)と、戦争を知らない無邪気さをもって「秘密」に近づく子供たち(雄太、博志、美奈)っていう構図がいい。時代が違えど、この6人が子供の頃に描いた夢はまったく同じ。だからこそ、マカトの口からすべてを聞いた雄太たちが紡ぐ未来が明るいものに違いない、と確信を得られる素敵なラストだった。


90年代生まれの雄太たちはもちろんのこと、私だって戦争を知らない。

 博志は記録の中の戦争なら知っていた。沖縄戦で何人死んだか、戦争経験者よりも正確な数を知っている。だけどそれはただの情報で、実感がない。オジィやオバァが話してくれる戦争はとっくに終わっていた。なにしろ博志は湾岸戦争後に生まれた世代だ。ベトナム戦争中東戦争朝鮮戦争も何も知らない。そんな九〇年代生まれの博志や雄太に、戦争経験者と同じイデオロギーを持てと言っても無理な相談だった。
 子供ながらに得た正解は「戦争反対」ということだ。間違ってはいないが、何かが欠落していた。欠けているものが今わかった。感情だ。

日本人はなぜ戦争を語らないのだろうか。まるでタブーのように。戦争はもう「江戸幕府」や「明治維新」と同じレベルで歴史の授業で習うものでしかなくなってしまった。「オジィやオバァが話してくれる」だけでも沖縄はまだいいのではないかと思う。語らなければ伝わることもないのだから。日本はそういう風土なんですかねぇ。