幻夜(東野圭吾/集英社)★★★★☆

幻夜
もうひとつの「白夜行」ともいうべき作品でしょうか。


ある事件をきっかけに深く結びついた男と女。男は人生を掛けて完璧な裏舞台を整え、女は表舞台を駆け上る。この基本的な骨組みは同じ。

まったく異なるのが、物語の構造だ。「白夜行」では裏舞台が一切描かれない。男と女が接触するシーンすらまったくない。それゆえに二人のまわりで次々と起こる事件は、気味悪くスリリングだ。一方の「幻夜」は、悪女の極みともいえる女の手練手管がたっぷりと描かれる。

もうひとつ大きく異なるのは、男と女の絆の深さだ。きっかけとなった事件のおぞましさ、そして付き合いの長さから考えれば当然だけど、「白夜行」の二人は最後まで一番深いところでお互いを信じていた。一方「幻夜」はそれと同じように思わせておきながら、あくまで女が男を手玉に取って利用しているだけだ。だからこそ真実に気付いた男が女と対峙するまでの後半部分がスリリングで面白い。


同じ枠組みでこれほど印象の異なる物語を描いた著者に拍手ですね。ま、連続して読むと、「白夜行」の凄さが際立つわけですが…。それはしょうがないかな。「白夜行」はこれまで読んだ東野作品の中でもダントツで一位だから。でも比べることばかり書いておいてなんですけど、この「幻夜」もひとつの作品としてめちゃめちゃ面白かったです。