旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))(北森鴻/文春文庫)★★★★

旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))
冬狐堂シリーズ、講談社から文春に移動?
北森鴻の数あるシリーズのなかで、わたしはこの冬狐堂シリーズが一番好きだ。何てったって骨董業界をたった一人で渡り歩く旗師、<冬の狐>こと宇佐見陶子が格好いいんだもの。信じられるのは自分の目だけという特殊な世界で、その美貌も手伝って「凄腕の目利き」として、業界ではちょっとした有名人。ただ友人のカメラマン硝子に言わせれば「トラブルメーカー」。何かと厄介なトラブルがらみの「ブツ」が彼女のもとに集まってくる。陶子も陶子でついつい真実を追い求めてしまう。また個人として芸術品をリスペクトしているため、作者の顔に泥を塗るような犯罪に対してはどこまでも冷酷に犯人を追いつめていく…この表題作「緋友禅」のように。
ふらりと入ったギャラリーで出会った無名の作家によるタペストリーを気に入った陶子は、商売っ気のないその貧乏作家からすべての作品を買い上げる。ところがいつまでたっても商品が送られてこないためその作家のもとを訪れると、なんと彼は死んでいた。そしてタペストリーもすべて消えており…!?
この表題作は全体的にすっきりしており、読後感もいい。このシリーズにしては珍しく、陶子の知り合いが事件に関係してないせいかも。そういう意味では薄味なのだが、芸術に関わるものとして許しがたいチープな犯罪者に、びしっと陶子の制裁が下るラストはやっぱ読んでて気持ちいい。
このほかでは…。陶子と浅からぬ縁のあったある男の過去を知る旅「陶鬼」は、焼き物作家として挫折した一人の男が歩んだ苦しい半生と本人も知ることのなかった皮肉な運命が描かれる。「『永久笑み』の少女」ではある掘り師の娘の行方不明事件を解き明かすのだが、陶子から関係者である大学教授への手紙と、実際に解明に至るプロセスが交互に描かれており、短編ならではの構成が新鮮。そして<円空になりたかった男>の人生と、陶子ですら見分けのつかないレプリカが引き起こす事件を描いた「奇縁円空」は、逆に短編とは思えない壮大さだ。
やっぱいいね、北森鴻は。シリーズ最新作、首を長くして待ってます。