レキオス (角川文庫)(池上永一/角川文庫)★★★★★

レキオス (角川文庫)
一部で絶賛されながらも絶版だった、池上永一の話題作がついに文庫化!

舞台は西暦2000年の沖縄。米軍から返還された天久開放地の荒野に巨大な魔法陣が出現する。1000年の時を経て甦る伝説の地盤「レキサス」を巡り、米軍、学者、女子高生、ユタたちが入り乱れ、ついにその封印は解かれてしまうー。
大いなる魔法が完成するとき、人々はそこに何を見るのか?

いやはや面白い。物語は進むにつれどんどん複雑になっていくのだけど、そこを引っ張るキャラの濃さ! 
まず主人公のデニス。黒人と日本人のハーフである母親と黒人の父親から生まれたクォーターで、見た目完全に黒人なのだが、沖縄言葉、日本語、英語を自在に使い分ける女子高生だ。さらに視力は8.0以上、スコープなしでスナイパーになれると米軍からのお墨付き。…って、君はアフリカの狩猟民族か。
話はそれるがつい数日前友達と飲んでてその友達が「最近視力落ちたんだよねー」と言ってたので「へぇ、どのくらい?」と聞いたら「今で1.5くらいかなぁ」…はい?「あんたは現代人じゃない!」ときっぱり言い渡してきました。というわけで視力を巡るデニスと親友・理恵の会話のシーンに妙にウケてしまった。レベルが違うけどね! 
ま、それはともかく、そんな主人公を上回る(どころではない)ナンバーワンキャラは、「レキオス」の謎を探るため沖縄に滞在している学者・サマンサだ。世界でもトップレベルのとんでもない頭脳を持つ学者だ。なのに変態。どのくらい変態って、常にノーパン、常にコスプレ、ビーチにはトップレスならぬボトムレスで現れるオンナなのだ。男性にとってはありがたい存在? いやいやせいぜい奴隷にされるくらいですよ? M男には萌えるキャラかもしれんが。…ま、この二人以外にもいろいろ出てきますから、ホント。
そしてキャラに負けない物語の濃さも素晴らしい。長年の願いを叶えるため沖縄を文字通り根っ子から変えてしまうある男の計画に、シャーマンの血を引く主人公が挑みかかる。「レキオス」をめぐって様々なグループが攻防を繰り広げ、生き霊みたいなのは出てくるし、1000年前まで話はさかのぼったりして。根っこは土着的なのに、広がる物語はどこまでも壮大。こんだけ散らかしておいて、ひとつの物語としてまとめあげてるのがすごいと思う。もーラストなんて笑えるくらいとんでもないことになっちゃってるしね。
また沖縄と基地の問題もうまく絡めてある。一時期まで基地の中で暮らしていたデニスは、大声では言えないが自分にとっての故郷である基地をなくしてほしくないと願っている。理恵は基地の存在を憎んではいるものの、先祖代々の土地を米軍に貸し出してることで家族の生活が成り立っていることを知っているから、そのはざまで苦しむ。そんな二人が本音でぶつかったシーンは出口が見えなくて悲しいのだけど、割って入ったデニスのオバアの言葉によって、とても優しいシーンになっている。
去年話題となった「シャングリ・ラ」との共通点も多い。ラストに向かって物語がはっちゃけてくかんじとか、キャラの立ち位置とかがね。「女の子」が主人公で、やたら濃いキャラはほぼ女なあたり、ホントこの二つの物語はよく似ている。
なにはともあれ、読みはじめると止まらない傑作であります。嬉しいことに巻末には解説がわりに大森望×豊崎由美の対談が! この「レキオス」についてたっぷり語ってくれてます。「シャングリ・ラ」を気に入った人はもちろん、池上作品初挑戦の人でも楽しめるエンタメ性高い一冊。せっかくの文庫化だし、分厚さにめげず未読の人はぜひどうぞ!
オススメ!