クライム・マシン (晶文社ミステリ)(ジャック・リッチー/晶文社)<21>

クライム・マシン (晶文社ミステリ)
この短編集を締めくくる解説はこの問いかけから始まる。
「ジャック・リッチーをご存知だろうか。」ー
すいません、知りません。解説によれば、この作家は1950年代から80年代はじめにかけて350もの短編を書いた、短編のスペシャリストらしい。「ヒッチコック・マガジン」日本版の常連でもあったらしいので、古いミステリファンにとっては懐かしい人なのだろう。しかしアンソロジーとかに収録されたものをのぞけば、米国でも彼の作品のみで構成された単行本は数少なく、もちろん日本ではないようだ。となればわたしなんかが知るわけもない人なんですが、これがこれが面白かったんですね。ミステリを読んでると、最後の最後で足をすくわれるやつってあるでしょう? あれを快感と感じる人には絶対オススメだ。
この本に収められているのは17の物語。短編からショート・ショートまで、意地悪にぎらりと冴える小さな物語たち。ひとつひとつ挙げればきりがないが、やはり短い作品こそ著者の上手さが冴え渡る。「殺人哲学者」とか「旅は道づれ」とか、一段組みの単行本でたった5ページに満たないというのに、スコーンとラストで足払いされてしまう快感がたまらない。その快感に酔ったままついつい次の短編を読みはじめちゃう。
この短編の順番を決めた編者も上手いと思うなぁ。とくにわたしのようなジャック・リッチー初心者にとっては。この著者がどういう物語を書くか全然知らない状況であれば、一番最初に表題作をもってくる手法はかなり有効だ。そしてその直後に「ルーレット必勝法」でしょ?…読者が足すくわれまくってる最後には変人ばかり大集合の吸血鬼探偵のシリーズでしょ? かなり楽しいよ。
余談ですが、このなかの一編「歳はいくつだ」はジャンプ連載中の人気漫画「デスノート」が社会心理学的にかなり重なってしまった。…かなり余談でしたが。
それにしても編者は書いてないし、解説者も<F>としか書いてない。マニアックな翻訳ミステリファンならわかるのかな? そこが気になるところではあるけれど、その解説の最後で紹介されている、著者が晩年にインタビューで披露した「自分がこれまで書いた最も短い物語」というのが興味深い。それがたった一行(二文)なんですよ。著者の視点でそこまで削られた物語の全貌はいかに、と考えだすとたまらなく楽しいのです。
この本を読んでつくづく思ったけど、短編を上手く書ける人ってホント素晴らしい。