ハルカ・エイティ(姫野カオルコ/文芸春秋)<22>

ハルカ・エイティ
2002年、小説家である姪っ子の頼みで元祖・モダンガールとして紙面を飾るため、上京してきたハルカ81歳。「白髪をおだんごにして着物を着て灰色のショールをはおったおばあさん」を想像していたカメラマンや編集者は「粋なナイルグリーンのスーツを着て”パリコレ”の会場を歩くように背筋をまっすぐにして歩いてくる、褐色の髪をボブカットにした女」を見てあっけにとられる……。戦前から現代までーめぐるましく変化する日本社会を背景に、大阪のモダンガール・ハルカの半生を描いた長編。ノンフィクションではないと断ってあるものの、実在の人物と実話をモデルに描いた、姫野カオルコの新境地だ。
嫁ぎさきの姑も舅もとっても優しいし、夫も浮気癖が玉にきずだがいい男だし、そんな環境のなかで守られていつまでも天真爛漫でいられたハルカのキャラクターそのものが希有にも感じる。が、妙にさばけててなんでもおもしろがるというあたりは、田辺聖子の描くキャラとも近くて、昔の関西の女っていうのはこういう気質なのかなぁと思ったりもした。一方で自分の浮気相手の男の面倒は最後までみてやる、という男性的な一面もあって、かなり好き。
しかし時代を考えると変わった夫婦でもある。お互いの浮気を知らんふりしながら、けっこう仲が良かったりして、パートナーとしての絆の強さが感じられる。ラストシーンの夫婦の会話にはちょっとほろりとさせられた。
ただひとつの小説としてみるなら、平坦な印象を受けるのも事実だ。夫との関係も友人との関係も浮気相手との関係も時代の大きな節目さえ、どれもおなじようなトーンで描かれているのせいかもしれない。もうちょっとフィクション寄りで書いても良かったような気はするが、ま「新境地」ってことで。