イッツ・オンリー・トーク(絲山秋子/文芸春秋)<20>

イッツ・オンリー・トーク
とても評判の高い新人作家だが、この人の作品を読むのは二冊目。実は最初に読んだ『袋小路の男』があまり好きではなかったのだ。上手いなとは思ったものの、主人公を振り回す男のキャラが嫌いで、なんとなく他の作品を読みそびれていた。でも気になるのでデビュー作から再挑戦。

直感で蒲田に住むことにした。

という印象的な出だしで始まる表題作は、売れない画家でかつ鬱病な主人公とそのまわりを通り過ぎる人々を描いた群像小説。人と人の距離感がとても心地よくかんじる、のはそれが楽だから。距離が近ければそれだけ楽しいさも増すし苦しさも増す。だからこそ適度な距離は心地いい。でも人は常にそれだけでは満足できないものだ。この作品の距離感は、主人公にとって最も近い距離に居た友人の死からの、終わらないかもしれないけど、でも前向きなリハビリだ。
そしてもうひとつが、馬術大会での事故のショックを引きずる塾講師・順子の物語「第七障害」。
思うに二つの物語は似ている。何かの苦しみやショックから、時間をかけながら回復していく過程の物語。再び傷つくことを恐れてまわりと距離をとってしまう、というのはとてもよくわかる。でもこれから再び距離を縮めていくだろうと思わされるこの二つの物語は、読んでいて心があたたかくなるし、主人公たちを応援したくなる。
とても面白かったです。遅くなったけど、今からでも全部読もう。