唇のあとに続くすべてのこと (光文社文庫)(永井するみ/光文社文庫)<19>

唇のあとに続くすべてのこと (光文社文庫)

エリート商社マンの理解ある夫と9歳になる愛娘。自らは料理研究家として活躍する海城奈津、38歳。なんの不足もない平穏な日常を送るかに見えた彼女のもとへ、ある日、かつて勤務していた会社で不倫関係にあった上司が事故死したとの報せが入る。その通夜の席上、元同僚の藤倉敬志と再会した奈津の心は怪しく揺らぎはじめる。サスペンス溢れる大人の恋愛小説。

上司の事故死が殺人事件かもしれないこと、その上司が主人公に再び交際を迫っておりストーカー化していたこと、などから警察や二人の過去を知る関係者たちから疑いの目を向けられる主人公。上手いなと思うのは、事件の夜の主人公の行動が、最後まで読者にも明かされないことだ。主人公の第一人称で描かれるにもかかわらず、犯人は主人公かもしれない、そのサスペンス性がたまらないのだ。
ただ、この作品もちょっと納得いかないところがある。それはその上司から昔の関係を夫にバラすと脅されて、会うことを承諾させられたという点だ。現在の夫との婚約を機に、奈津は上司との関係をきっぱり断ち切っていたのだ。もちろん婚約以前の交際期間は二股だったわけだし、曲がりなりにも「不倫」という関係だったのだから、できれば夫には知られたくないかもしれない。でもそこで今さら会ってしまえば、そっちのほうが都合悪いのではないだろうか?再び関係を結ぶには至らなかったものの、昔の不倫相手と会ってることが夫にバレたときのほうが問題だろう。それなら一切合切を夫に打ち明けたほうがいい。結婚前の関係なのだし、ましてや今は仲の良い3人家族なのだ。そんなことが離婚につながるとは思えない。また料理研究家としてスキャンダルを恐れるのはわかるが、それも「昔の不倫」と「現在の不倫」のどちらが奈津にダメージを与えるかは火を見るより明らかである。ストーカーになりかけた昔の恋人にわざわざ会うというリスクを負う必要があったのかどうかという点が疑問に感じられて仕方ない。
ま、そこらへんの「穴」があるのがこの人の作品らしいのだけれども。それを差し引いてもこの作品は面白いと思う。そろそろ新刊でないかな。