光(三浦しをん)

光

三浦しをんの新作来ましたよ。小説としては『仏果を得ず』以来か。わたしは面白いと思ったのだけど、『仏果を得ず』はあまり話題にならなかったような気が。どうしてでしょう。そして今回の新作は、タイトルとは真逆にダークな作品。まあこれまでの作品でもそういうのはあったんで意外は言い過ぎかもしれないけど、ここまでがっつり長編でダークな物語を書いてくるとは思わなかった。さてどう評価されるんでしょうか。
本作は、大津波で故郷も家族も失ってしまって生き延びた三人の子供の物語だ。一人の少女はやがて芸能界という場所に身を置き押しも押されもせぬ女優に成り上がった。一人の少年は役所に勤め結婚もし子供ももうけて淡々と生きる。そしてもう一人の少年は工場を転々としながらもう一人の少年を捜していた。
これまでの作品もそういうのはあった、と書いたけどそれはどうにも幻想的な手合いのもので、ここまで現実的なものはなかったような気がする。面白いのは面白く、ほぼ一気読みだった。背徳感をにじませる文章は確かに上手い。しかしなぜ今、三浦しをんがこんなにも直接的な犯罪を描くのか?
人間の性を突き詰めていけば、もしくはその過程で、作家は「罪と罰」にぶち当たるんだろうか。最近で言えば角田光代吉田修一がそうだったように。重ければ重いほど、手にとりたい誘惑もあるんだろうか。実際に角田光代吉田修一の犯罪を扱った近年の作品は、半端なミステリ作家など及びもつかないレベルのもので、今も大人気の東野圭吾の『流星の絆』を読んだときはずいぶんとうんざりしたものだ。他のジャンルの人間があれだけの作品書くんだから、本職の人間はもっと頑張れよと。
さて戻って本書。なんでまたこんな時代にこんな小説書いたのかなぁというのが本音だ。これじゃまるで現代版『永遠の仔』だ(『永遠の仔』だってそんなに古くはないけど)。別に古いも新しいもない話題かもしれないが、どうにも今読むには適さない、そういうかんじがする。
ついでにこの物語は何も解決できてない。口封じできて良かったねくらいしか言うこともない。光は見えず、ただ影が増すばかりだ。
なんかね、そりゃ書きたいもの書いてもらうしかないんだけど、『風が強く吹いている』みたいのを書けるんならそういうのを書いてほしいな。現実ではなかなか味わえない幸せを感じることが出来るから。そう思わせてくれる作家だって実は少ないのだから。