ウツボカズラの夢(乃南アサ)

ウツボカズラの夢

ウツボカズラの夢

本屋をプラプラしてこれといって読みたい本も見つからずそれでも何か買いたくて、ああこの人の作品ならまぁ間違いはないだろうと買ったのが本書。
結果、間違いないどころではなかった。今さらながら面白いな乃南アサ! そういえばこの人の作品はまだ数えるほどしか読んでなかったことに、感謝。これからたくさん読めますからね。

ウツボカズラ
ウツボカズラ科の多年生食植物。先端の袋状の捕虫器で捕らえた虫を養分にして育つ。

高校卒業と前後し母が病死した主人公の未芙由は、嘆く間もなく新たな妻を迎えた父親にも見切りをつけ、会ったこともない親戚を頼って東京に出てくる。母の従兄弟である尚子おばさんの家族は裕福ながらそれぞれがバラバラの家族で戸惑いを覚えるが、他に行くあてもお金もない未芙由はその家に居候することに………。
たとえばわかりやすく金とか権力とか派手な世界でウツボカズラとしてしたたかに生き抜いていく女の話ならめずらしくもなんともないんだけど。あえて狭い世界に舞台を限定したことで、なおさらそのウツボカズラの恐ろしさが際立つ。学歴や才能といった目に見えやすいものとは真逆にほとんどの人には見えないもの、社会における人間としてのサバイバル能力っていうんでしょうか、そういうものによって知らずに築かれているヒエラルキー。どれだけ驕ったってしょせん人間など与しやすいものだと、そんな皮肉な物語。まあでもそのヒエラルキー極めるのも大変そうだし、わたしは与しやすい人間の側でいいやとしみじみ思いました。
久々に読んだ心理サスペンスものとしてはかなりのアタリでした。しばらくは読むものないなぁと思うことはなさそうです。