狐火の家(貴志祐介)

狐火の家

狐火の家

防犯探偵・榎本シリーズ。なんてさも知ってるかのように紹介しますけど、この作家の作品を読んだのがこの本に収められている「盤端の迷宮」という短編を文芸誌で読んで気に入ったからなんですけどね。それで過去の作品も追いかけたりして、そして戻って来た最新刊が榎本シリーズで、なんか嬉しいわけです。
それぞれに趣向を凝らした4つの作品が収められた短編集。シリーズものとは思えないアプローチの違いで楽しませてくれる。シリーズものってある意味キャラクター小説だから似たアプローチでもファンは許してくれるんだろうけど、それを避ける作家の努力こそがミステリ短編としての完成度を高めている気がする。シリーズものとしての楽しみであるキャラクター同士の馴れ合いみたいなものは少ないのだけど、逆に言えばどの作品でも単独で読んで面白いんだよね。キャラクター小説はハマればすごい好きなんだけど、敢えてひとつのミステリ小説としての作品の完成度を優先させているこのシリーズは、かなり好みだ。
表題作である「狐火の家」と「盤端の迷宮」は膨らませれば長編でもいけるだろう奥深さ。一方の「黒い牙」「犬のみぞ知る」は短編ならでは、むしろ短編でなければという完成度でございました。
以下は備忘録。
「狐火の家」……田舎だからこその二重の密室。やり切れない家族の問題も絡めたミステリ。
「黒い牙」……<ある生きもの>を偏愛した男の妻とそのフェチ仲間の男の闘いに巻き込まれた青研純子。ワンシチュエーションミステリ(?)が目新しくて面白い。
「盤端の迷宮」……将棋という世界をベースにしたミステリ。最初に読んでハマっただけあるけど、これは短編に収めておくには惜しいくらい。長編でも一本、将棋ネタで描いてほしい。
「犬のみぞ知る」……作者いわくのボーナストラック。理論整然としたトリックと劇団員たちの弾け具合のミスマッチが、ミスマッチなんだけどちょっと面白い。