贖罪〈上〉 (新潮文庫) 贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)(イアン・マキューアン)

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)

贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)

待望の文庫化! いやー単行本でかかったから。で、読み終わってからたまたま部屋の整理をしてたら棚の奥から単行本も出て来てびっくりしましたけどね。いつ買ったんだろうホントに。でもマキューアン好きだからいいや。いいか?
タイトルはなんとも大仰なイメージ。だけど一人の少女の頑なな嘘から広がっていくそれぞれの人生を辿り綴った、この壮大で緻密な小説に名付けるとしたらやはりそれしかない。決して許されぬ過去を創作によって少しでも救おうとするのは、あまりに自己満足か。最大の被害者である姉とその恋人はもちろん、主人公である小説家さえこの物語によって救われることはない。それでも綴ることに意味があると、可能な限り姉とその恋人に幸せな結末を、可能な限り自分に厳しいストーリーを。現実の過去に空想で付け加えたエピソードは姉たちのため、そして現実のエピソードから削らなかったのは自分の罪とその重さを書き記すためだとしたら。やはりそれは小説家にしか出来ない、唯一の『贖罪』。
こういう物語の組み立てかたが、さすがマキューアン、なんですよね。大枠だけ見ればこれまでの作品と同じく、小説好きを喜ばせる「驚き」の骨格で、それでいてこれだけ長い物語を紡ぐエピソードの重なりが緩急効いてて、読ませる読ませる。もはや世界レベルで大御所だというのに、いい意味でそういう重厚さはなく意外性でもって「読書の楽しさ」を与えてくれるこの人がやっぱ凄く好きだと、改めて思いました。