サクリファイス(近藤文恵)

サクリファイス

サクリファイス

この人の作品、読んだことないんです。でもこの作品、どの書店でもわりと目立つ場所に平積みされているので、気になって買って読んでみました。
ロードレースをまったく知らない、というかスミマセンが競技としてどういうものなのかテレビを通してさえも見たことがないわたしでも楽しめるという点においては、違和感なくちょうど良い解説を加えてくれる作者の技量は素晴らしい。
スポーツ小説と言えばたしか去年がアタリで、三浦しをんの『風が強く吹いている』、佐藤多佳子『一瞬の風になれ』という二大陸上小説が、もう今年も終わりだっていうのにいまだ印象深い。
この小説を読んで感じたのは、先に挙げた二作に比べれば人間ドラマとしてはちょっと浅い、ただ逆にそのあたりのぎこちなさは否定できないとしても、この手の小説ですでに定石であるキャラだちには頼ってないという潔さも。そして本番の大会も含め、風を切って駆け抜ける、もしくはギリギリのバランスで山道を登る、そんなシーンは息が詰まるほど。そして過去のチームに起きた事故を巡ってのあれやこれやは、まさにロードレースという競技の特殊な性質をこれ以上ないくらいに上手く絡めて、ラストに向かって加速する。
うん、恐ろしくバランスのいい作品。これでキャラクターをもうちょっと魅力的に描いてくれれば、そしてそれぞれの関わりがもうちょっとナチュラルであればと、ちょっと惜しい。
でも半信半疑ながら手に取ったわりには、読み出したら一気に引き込まれちゃったし、うん、面白かったです。