よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり(よしながふみ)

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり

よしながふみの対談集です。やまだないと福田里香三浦しをんこだか和麻羽海野チカ志村貴子、荻尾望都、という対談相手の人選に負けないトークの中身…………濃すぎる!
いや、めちゃめちゃ面白かったです。クリエーターとは、漫画とは、少女漫画とは、萌えとは、男女における萌えポイントの違いとは、そしてBLとは、BLを愛する心とは………。自作を含めて様々な漫画作品への率直な評価もおもしろいし、どういう関係性が好きか、その好みの源流まで探っていく濃いトークが興味深い。

(よしなが)最初は反発し合っているけど好きになっちゃうという展開ではなく、ずっと最後まで平行線をたどりながら、たまに交わるということもあるのがミソなんですよ。
(三浦)わかります。私も、自分がいちばん好きな人間関係はどんなものだろうと考えると、テーマは「孤独と連帯」なんですよ。
(よしなが)まさに(笑)。それこそやおいの本質ですよ。

平行線をたどりながらたまに交わる……うん、それはもう、読者に妄想の種をまいてるようなもんですよね。

(よしなが)萌えの気持ちのドーパミンが恋愛しているときと似ていないかと言われれば、似ていると思う。疑似恋愛、と言われてちょっと首を傾げたくなるのは、現実の恋愛より劣っているものだという感覚でものを言われているからだと思います。逆なんですよね。妄想するドーパミンのほうが、恋をしているよりもはるかに多く出ているはずなの。だから中毒になっちゃう。妄想のほうが快楽としての純度が高いんですよ。

妄想できるからこそ、日々楽しく生きていける気がします。

(よしなが)以前、三浦しをんさんともお話ししたんだけど、「やおい」っていう単語を、私や友だちの腐女子の人たちの間では、昔っから男の人同士以外のことにも使ってきたんです、よく例に出すのは『ケイゾク』の真山と柴田の関係とか。『トリック』の山田と上田とか。男女なんだけど、彼らの関係は恋愛じゃない。見た目仲良くないんだけど、お互いの力を認め合ってて、それでその人が本当に困ったときには手をかしてやる関係みたいなものを、やおいだと私らは呼んでいて。で、『NANA』のナナとハチもやおいなんじゃないかって。
<中略>
(羽海野)私『ハチクロ』描き始めるときに、色々考えたんです。初めての連載だしこの雑誌を買ってくれてる読者さんはどんなモノがすきなんだろうと。私は『ケイゾク』とか『トリック』とか好きだったんだけど。恋愛じゃないけどすごく仲がいい点っていうのは、何だかとてもときめくなぁって。だから、ああいうのを描けばいいのかなと。で、そこからほぐしていったような気がする。

個人的には男の人同士には萌えないんだけど、ここで例に挙げられているような『ケイゾク』『トリック』のような、微妙な距離感のある男女コンビは大好きですね。

(三浦)女の子を主人公にする、でもこんなキャラだったら腹がたつという、少女マンガが抱えていた難しい部分をクリアするためにBLが生み出されたところもあるかもしれません。
(よしなが)あ、そうか! 三浦さんすごい! 今の少女マンガが難しいのは、女の子が魅力的に描けて、読者の人が嫉妬しない主人公にしなくちゃいけないからか。「のだめ」とかもそうですけど、そのためにゴミ女にしたりいろんなテクニックが必要になってくるのかも。
(三浦)ところが、『のだめ』を読んで怒る人がいたんですよ。なぜあんなゴミため女に千秋先輩が……、と。「ええー、そこで怒っちゃうの!?」とびっくりしました。

それはたしかにびっくりしますね。完全無欠の千秋様が天然ゴミ女に振り回されるから面白いんじゃないか! 


というわけで、引用し出したらキリがないくらい。よしながファンはもちろんのこと、少女漫画が好きな人なら間違いなく胸を掴まれる対談集です。オススメ。