エンド・クレジットに最適な夏 (ミステリ・フロンティア)(福田栄一)

ミステリ・フロンティアの近刊ですね。この作者の作品を読むのは初めてどころか、名前も知らなかったのだけど、平台にあったのを手に取ってなんとなく購入したところ、アタリでしたね。久々の一気読み、でした。

貧乏学生の晴也のもとに持ち込まれたのは、自分を付け回す不審者を捕まえてほしいという女子大生の頼み。早速彼女の部屋で不審者が現れるのを待っていると、マンションの前の道からこちらを見上げている男の姿が。しかし男は不審者ではなく、隣室に住む女性の兄だった。妹と連絡が取れなくて困っている彼の頼みを、晴也は引き受けることになり……。なぜか芋蔓式に増えてゆく厄介な難題に東奔西走気息奄々、にわかトラブルシューターとなった青年の大忙しの日々を描いた巧妙なモザイク青春小説。『A HAPPY LUCKY MAN』の俊英が贈る快作!


まず最初に、プロットはすごく面白いんです。ひとつの事件を機にいくつもの事件がかかわってきて、同時進行するいくつかの事件を主人公が小刻みに動き回って、そして事件そのものが交錯したりして、最後まで怒濤の勢いで読ませてくれる。


でも一番気になるのは、どこまで本気なのか疑いたくなるほどのハードボイルドっぷり。設定は現代で主人公は大学生だよね?と何度も確認したくなった。だけどそれはそれで完璧な世界が築かれているので、どっぷり浸かって読んでると、主人公がひたすら格好いいのよ。だけど一歩引いて読むと、「あんたがもし能見さんをものにしたいんなら、まずは自分を磨いて大人の男になることだな」なんてセリフで大笑いしてしまいそうになる。ちなみにこれ、大学生である主人公が同世代の男の子に向かって吐いてるセリフですからね。あとラストあたりで犯人との格闘で負傷した主人公が、ひさしぶりに煙草を吸うシーンとかね。どんだけハードボイルドだ、おまえ。笑ってはいけない空気がこの小説を支配してるからこそ、なおさらおかしくてしようがなかった。


まぁだから、緻密で勢いのあるストーリーと、ハードボイルドな大学生というキャラのギャップを楽しむ作品なのだな、とまとめておきたい。


この著者の過去の作品も近いうちに読んでみたいです。