ランナー(あさのあつこ)

ランナー

ランナー

あの『バッテリー』以降、どうも個人的にはイマイチ判定な作品が続いていて、ちょっと距離をおいていたあさの作品。ただこの最新作はひさびさのスポーツものだし、さらに「『バッテリー』を軽く越えちゃったね!」という金原瑞人氏の帯のコメントに後押しされて、ちょっと期待して読み始めた。

「おれは走れないんじゃない、走らないだけだ、そう信じたくて、逃げちまったんだ」
長距離走者として将来を嘱望された高校一年生の加納碧李は、複雑な境遇の妹を案じ、陸上部を退部することを決意した。だがそれは、たった一度レースに負けただけで走ることが恐怖となってしまった自分への言い訳だった。走ることから、逃げた。逃げたままでは前に進めない。碧李は、再びスタートラインを目指そうとするーーー。

タイトルからしてがっつりとしたスポーツ系かなと思い込んでたのだけど、いい意味で裏切られましたね。ひりひりとした青春小説でもあり、せつない家族小説でもありました。いろんなことを振り切るように、そしてすべてを受入れて、「走る」少年。さまざまな人間の思いが交錯するなか、16歳にしてはあまりに重い荷物を抱えながら、美しいフォームで駆け抜ける主人公の姿を思い浮かべると、胸が痛くなる。
家族の問題を振り切ることなく、すべてを抱えてよろめきながら、でも「走る」ことに救いを求めた少年の物語。「ザ・青春小説」な一作でした。