シー・ラブズ・ユー (2) (東京バンドワゴン)(小路幸也)

シー・ラブズ・ユー (2) (東京バンドワゴン)

シー・ラブズ・ユー (2) (東京バンドワゴン)

あの『東京バンドワゴン』の続編です。そりゃ楽しみにしてましたとも。あの騒々しい下町系大家族にまた会えるのだから。
帯にある北上次郎氏の「青春と読書」2007年6月号書評から抜き出された、

いつまでもみんな元気でいるように、と思わず祈りたくなる

というコメントに、深く共感。ずっと読んでいたい、終わらないでほしい、と思わされる作品なのだ。
前作『東京バンドワゴン』のレビューはコチラ→http://d.hatena.ne.jp/juice78/20060502


舞台は明治から続く古本屋<東京バンドワゴン>(と新設されたカフェ)。そこに住むのは、一家の大黒柱・堀田勘一を筆頭に四世代9人、プラスネコ4匹に犬2匹、さらにおなじみ近所の人たちもしょっちゅう出入りし、まぁ騒がしい状態がデフォルトだ。ついでにトラブルも呼び込みやすい。そんな一家をやさしく見守り、物語の語り部であるのが、勘一の亡き妻・サチだ。


今作も堀田一家のパワーは健在だ。全員が全員マイペース。なのにうまく噛み合ってるのが笑える。相変わらず突拍子もない行動に出るのは大黒柱の勘一と、その一人息子で風来坊なロッカー・我南人くらいで、あとはまぁわりとしっかりしてるんだけど、不思議なことに全員がどんなトラブル来ても基本動じないんだよね。それぞれが自分の役割をなんとなく認識しているというか、なにより家族への絶対的な信頼がある……もしくは天然? とりあえず全員O型かB型ではないかと決めつけたくなるような大らかさとマイペースさだ。


そんな堀田一家全員が揃う食事シーンは、このシリーズの名物でしょう。ちゃんとみんな噛んでるのか?と心配したくなるほどのクロストークの嵐。毎回読んでて楽しいったらありゃしない。わたしもぜひ参加してみたいけど、食事もトークもそのテンポに付いていけないまま終わりそうだ……。


とりあえず備忘録として、それぞれの小タイトルと超簡易あらすじを。
★『=冬=百科事典は赤ちゃんと共に』
一部分をくり抜かれた一冊を含んだ百科事典を売りにきた大学生と、カフェに置きさられた赤ちゃんを結ぶ糸とは…?
★『=春=恋の沙汰も神頼み』
我南人の娘である藍子に想いを寄せる若きIT系社長・藤島の忘れられない過去、そして自分で売った亡き妻の蔵書を一冊ずつ買い求めにくる老紳士の目的は……?
★『=夏=幽霊の正体見たり夏休み』
ひ孫にあたる花陽と研人によってもたらされたある一冊の古書に、勘一の顔色が変わる。一方ご近所の正枝さんが最近同居し始めた孫の挙動がおかしいと我南人に相談を持ちかけてきて……。
★『=秋=SHE LOVES YOU』
東京バンドワゴン>というか堀田家そのものを支えたふたりの女性の話、で……え?強盗殺人未遂事件?産気づいた?離陸時刻が迫る? いきなりなドタバタ展開とともに、家族のかたちがそっと変わる。


毎回堀田家に持ち込まれる、トラブルのち人情話はぐっとくるね。とくに春と夏の話は正直、涙目で読み終えました。一方で理想的な家庭ドラマであるにも関わらず、きちんと家族の変容を自然に入れてくれているのが嬉しい。
ホントに読めて幸せな「家に帰りたくなる」作品。そしてできればずっと続けてほしい、勘一一家物語なのだ。