桐畑家の縁談(中島京子)

桐畑家の縁談

桐畑家の縁談

『結婚することにした」
妹・佳子の告白により、にわかに落ち着きをなくす姉・露子(独身)。
寡黙な父、饒舌な母、そして素っ頓狂な大叔父をも巻き込んだ桐畑姉妹のうるわしき20代の日々ーーー。
どうしたいの? 露ちゃん。

学校からも家族からも浮いていた、自分の影にいたような妹が、あっさりと結婚を決めた。仕事にも結婚にも本腰を入れられない、露子に選択のときは迫りつつある……。


「どうしたいの?」という質問に即答できる人なら悩んでないよね。だけど妹の部屋を出て行かなくてはならないという現実的な問題から、露子は後押しされるように現実に向かい合う。それに付随するのは、自分の「過去」や「甘え」に決別すること。そんな露子の正攻法な立ち向かいかたが、優しく柔らかく描かれる。


人生において「停滞期」って必ずある。自分から動かなきゃどうしようもないと分かっているのに、動けなくて、それにイライラする。だけど動いてない時間が長ければ長いほど、腰も重くなる。そんな露子が、現実的な問題として「妹の結婚」によって無理矢理背中を押され、ゆったりとではあるが現実に向かう姿は、同じく停滞気味なわたしにも力をくれるのだ。


職なし留学生の台湾人と結婚に一番バタバタしていた両親との関係もまた、結婚前夜のアクシデントを絡めて家族のつながりをぐっと引き寄せたラストで上手くまとめていて、家族小説としても楽しめる作品に仕上がっている。


ただ惜しいのは、またちょっと地味なイメージの作品だったなということ。いやものすごくいい作品だったとは思うんだけど、「中島京子」ファンじゃないと手に取らない作品だよね。もっとたくさんのファンを獲得できる作家だと思うだけに、一度何かで注目されるようなインパクトのある作品を出して欲しいな。個人的には『ツアー1989』みたいな路線を期待したいんですけどね。