九月の恋と出会うまで(松尾由美)

九月の恋と出会うまで

九月の恋と出会うまで

「男はみんな奇跡を起こしたいと思ってる。
好きになった女の人のために」
雨恋』の著者が放つありえない恋の物語・第二幕

主人公の詩織は、趣味である写真の現像にまつわるトラブルで引っ越しを余儀なくされる。やっと見つけた新たな引っ越し先は、三件以上入居を断られたこと、さらになにか「芸術」に関わっていることが入居条件という、変なアパート。存在が芸術だという女医、詮索好きのヴィオラ弾きなど、たしかに一風変わった入居者たちだが、隣人の平井はただのサラリーマンに見えるが……? 入居して間もなく、エアコンの穴から誰かが話しかけてき、驚く詩織。さらに驚くことに、話しかけてきたのは一年後の平井だという。証拠としてその日から一週間の新聞の見出しを当てられ、信じざるを得ない。未来の平井は、現在の平井を尾行して欲しいと詩織に頼み込む。その真意は……?


エアコンの穴から未来の隣人が話しかけてくるという、その設定が面白い。さらに未来の平井の真意が何なのかというミステリ的な側面も気になって、ぐいぐい読み進めてしまった。とても可愛らしい物語だった。ただ、やたらキャラのたってる(詩織や平井よりずっと)アパートの住人たちが、ストーリーのコアな部分に絡みが少なかったのが残念。「ありえない」話だから当然かもしれないけど、この人の作品のキャラって面白いから、二人だけの閉じた世界より、ちょっとドタバタな笑いのある小説を読んでみたい気がする。