暗渠の宿(西村賢太)

暗渠の宿

暗渠の宿

芥川賞受賞は逃したものの一部で大絶賛だった『どうで死ぬ身の一踊り』の著者、西村賢太の第二作であります。『どうで〜』は個人的にもかなり気に入ったので、今日本屋でこの新作を見かけて嬉しくて即買い!
……けど奥付を見てガックシ。この本、去年の12月に出てたなんて……。ウカツ!オレ!! 12月は新刊ラッシュだからな……表紙も目立たないしな……名前もまだそんなに知れ渡ってないしな……つーか今日行った本屋さん(めったに行かないとこだけど)目立つ場所に置いててくれてマジありがとう。いやしかし、新刊チェックを生業としてる(←ちがう)身なのに、好きな作家の新刊を3ヶ月もスルーしてたなんて……情けないかぎりです。


地味な装丁だけど、帯はなかなか目立ちます。

全身私小説家(豊崎由美氏)
21世紀の大正作家(坪内祐三氏)
待望の無頼派福田和也氏)

玄人好みは共通してるけど、ちょっとタイプの違う三人の書評家のお墨付きというわけですね。


私小説なので、基本テイストは前作と同じ(というか本作に収められた「けがれなき酒のへど」が文芸誌デビュー作らしい)。というわけで『どうで〜」を読んだ時の自分の感想を拾うと、

藤澤清造という大正期の作家に傾倒した男が主人公で、その主人公は作家自身がモデルであるらしく、つまりこの小説は私小説というジャンルに分けられるよう。で、その主人公の男がひどいんだわ。生活費はすべて同棲してる女のパート代でまかなうヒモ状態で、自費出版しようとしてる藤澤清造全集の資金も女の実家から出させる始末。しかも暴力ふるうし。さらにこれまでモテない人生を送ってきたために今の女への執着度高いし。最悪だ。

そう、そんな最悪な奴がまた主人公なわけで。


本作は中編二編(風俗嬢にカモにされる「けがれなき酒のへど」と初の同棲生活を描いた表題作)が収められている。やっぱこの主人公しょーもなさすぎだよ、と思いつつもくすくす笑わされる。なんかね、わたしはこの人の小説、恋愛小説として読めるんですよ。
「けがれなき酒のへど」なんてホントに、もうそんなのバレバレじゃん、あんた気持いいくらいに騙されてるよって状況なのに、疑いの気持ちはあるのに、でも彼女を信じてしまう。二人の未来に夢を見てしまう。ツッコミどころ満載だけど、でも恋人同士のぬくもりに憧れてガンガン突き進んでいく主人公の姿にちょっとほろりときたりして。ともだちが欲しくて欲しくて、いやでもあんたの行動裏目にしか出てないよのエマニュエル・ボーヴ『ぼくのともだち』を思い出す。
風俗嬢にこんなありきたりな展開で騙されて馬鹿だけどかわいそうな奴だな、なんて思ってたら続く「暗渠の宿」ではちょっとでもコイツに同情した自分を反省する。金もないくせに住む場所にはこだわり、藤澤清造のためのガラスケースを女の親の金を使ってオーダーメイド、さらに彼女のつくったメシが気に喰わなくてぶち切れる。おまえ一回死ねよ、とわたしならキレ返す。でも恋愛の根底にあるのは、相手を許すってこと。だから他人から見たらダメダメな男を愛する(その逆も)ケースはざらに転がってる。それはわかってるのに、許せない。そんな情けない男の内面が自虐を越えた真面目さで描かれていて、それがおかしくってしようがない。



というわけで。やっぱ面白いわこの人の小説。大好物です。ボーヴとか町田康とか好きな人には、絶対オススメ。逆にこの作品が好きな人はエマニュエル・ボーヴも要チェック!


どうで死ぬ身の一踊り

どうで死ぬ身の一踊り

ぼくのともだち

ぼくのともだち