図書館危機(有川浩)

図書館危機

図書館危機

待ってました<図書館戦争>シリーズ最新刊! 異色の月9風戦隊モノも、これですでに三作目。

前作のラストでは、郁の憧れの「王子様」の正体がよりにもよって直属の上司である堂上だったことが明らかになり、郁は大混乱。パニくる郁を尻目に、今日も図書館ではさまざまな事件が起こる……。今作は、現実の「放送自粛用語」に近い検閲の問題や、「戦争」そのものへがっつり絡んでて、過去最高に面白かった。


★一、王子様、卒業
図書館内で悪質な痴漢行為が明るみに出た。しかも被害者は、小牧の恋人でもある鞠江だ。怒り心頭の図書隊は、郁と柴崎を囮に犯人確保に挑む……。
しかし見事な捕り物劇のあと、「あたし、王子様から卒業します!」という郁の破壊力抜群の一言が笑えます。過去の「王子様」にケリをつけて、現実の堂上に向き合うことができるか?


★二、昇任試験、来たる
昇任試験の資格を得た、郁と柴崎と手塚。柴崎はもちろん余裕の構えだが、郁は筆記試験が超不安。一方の手塚は柴崎と同じく余裕と見られているが、今年の実技が「子供への読み聞かせ」であることを知って愕然。さて結果は……?
郁と堂上の恋のキーワードになりそうな「カミツレ」。初デートもそう遠くはなさそう?


★三、ねじれたコトバ
『週刊新世界』のベテラン記者である折口が、それまでベールに包まれていたある人気俳優の生い立ちについてインタビューに成功した。しかしメディア良化法の検閲に引っかかるため「床屋」を「理容師」に換えたところ、俳優側が激怒、出版が延期になってしまう。折口はもと恋人である図書特殊部隊隊長の玄田に愚痴ったところ、突拍子もないアイディアを出されて……?
この話は面白かったなぁ。あとがきによれば現実に「床屋」は軽度の放送禁止用語に指定されているらしい。厳密にいえば「自主規制」ですけどね。
ネットで検索したらこんなのがありました。
放送禁止用語一覧
放送禁止用語集
共通のリストがあるわけではないと思うのだけど、まーたしかに報道番組などではさすがに聞かない言葉ばかりだな。バラエティ番組やドラマとかでは使われてる言葉もあるけど。しかし「床屋」を「理容師」にって、どう考えても「床屋」をバカにしてる気がする。上のリンク先のリストを見ていると(出典元がわからないし、時代によって刻々と変わるものだからそのリストの信頼性はともかく)他にも変なのがいろいろあって、「親方」は「チーフ」もしくは「班長」にするとか(親方の威厳が……)、「本腰を入れる」は<卑俗な感じをもつ人もあるので、注意して使う>とかそう感じを持った人の品性が疑われるものまであって、ちょっと笑っちゃうほど。でも実際のところ笑えない話だよなぁ。日本がアメリカみたく訴訟大国になっちゃったら、もっともっと「自主規制」と称して使えない言葉が増えるんだろう。明らかに品性の問題として報道の場では使われないものがあるのは当然として、「自主規制」の行き過ぎが「検閲」に近いものになってしまう可能性は多いにあるわけで、恐ろしいことだと思う。
このシリーズは良化委員会の「検閲」に対向する「図書館隊」という構図があるから、こういう問題にもがっつり向き合ってくれて面白い。さらに良化委員会へのネガティブキャンペーンにまで発展する起死回生のアイディアを出した玄田に、座布団一枚。


★四、里帰り、勃発ー茨城県展警備ー
★五、図書館は誰がためにー稲嶺、勇退
茨城県の美術展に、郁の所属する特殊部隊が応援に出ることになった。最優秀賞の作品がなんと、あきらかに良化特務機関に反旗を翻した作品だったのである。確実に検閲・没収の可能性があるため、応援が求められたのだ。しかし茨城は郁の郷里だ。両親に本当の任務を隠している郁は、戦々恐々。一方、茨城では偏向したローカルルールで防衛隊の地位が低くなってるらしい。現地に乗り込んだ郁たち特殊部隊はさっそく『無抵抗者の会』と名乗る団体から武器放棄を求められる……!?
この四章と五章はあわせて一つの物語ですね。良化特務機関との対決はもちろん、『無抵抗者の会』の抗議運動、偏向を増長させた図書館長、現地基地での防衛隊への陰湿なイジメなど、ハードルだらけの闘いを強いられることとなる。初めて大規模な攻防戦に参戦してリアルな戦闘を体感した郁のショック、また武力を根本から否定する『無抵抗者の会』への玄田の反論、など「戦争」そのものへのアプローチが目立つ一作でもあった。武器を手にした相手に「無抵抗」はただ無意味で、いやでも武器を手にせざるを得ない。口先の「戦争反対」はときに、思考停止した第三者の理想論に過ぎない。縮小かつファンタジー化されたこの物語のなかでもそれがきちんと描かれていて、ちょっと考えさせられるところがあった。
ま、それはともかく次の作品への伏線に満ち、かつ今作で一番スケールの大きなエピソードだった。ラストはじんわりきたし。しかし稲嶺司令勇退に伴い、また図書隊内部が揺れそうな予感……!?


あとがきを読んでショックを受けたこと。
図書館戦隊シリーズってあと一作で終わりなの!?
今回の作品すごく面白かったから、余計にショックだ。思ってたよりずっとこの図書館戦隊の世界にハマっていたようです。なんかもう、2〜3年に一度とかでいいから著者のライフワークにしてほしいような。あと一作なんて寂しすぎます。でもスピンオフの好きな作家さんなんで、またいつか出会えるとは思いますが。早速過ぎるけど手塚&柴崎のスピンオフ希望!