ひとり日和(青山七恵)〜芥川賞受賞作
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/07/07
- メディア: 雑誌
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主人公は20歳のフリーター・知寿は、母親が仕事の都合で中国に行くのをきっかけに、遠い親戚にあたるらしい吟子さんというおばあさんの家に下宿することに。知寿には他人のちょっとしたものを盗む悪いクセがあって……。一年にわたる二人のゆるゆるとした共同生活が描かれる。
なんというか、コメントもしづらい作品だ。とりあえず、会話とか細部の上滑り感が気になる。
まず主人公のキャラがですね、仕事中にずっと好きな男を見つめ続けてたり、なにかと被害妄想気味で、一言であらわすなら「めんどくせー女」なのだが、突き抜けてないので読み手としては妙にフラストレーションがたまるんですよ。他者から見たこの主人公の「めんどくささ」と、作者の捉えるこの主人公の「めんどくささ」が少しずれてる気がする。
あと、ところどころでビックリするような描写がある。好きな男の子の部屋へ初めて行ったとき、『ウエッジウッドのティーカップを洗って、茶葉から紅茶を入れてくれた』とかさ。わたしならドン引きだが。というかわたしだとウエッジウッドであることに気付かない可能性が高いか。でもすごい不思議なんだよね。なんでマグカップにリプトンのティーバッグじゃダメだったんだろう。しかもこれ以外、この男の子が何かにこだわりを見せるエピソードが皆無だ。肉体労働してる男なのに、というギャップ? 男二人で住んでる部屋にウエッジウッドのティーカップがあるという、そこに対するフォローは何もないのか!
とまぁ、誰もが予想しなかった受賞直後ということもあって、ちょっと意地悪な視点で読んでしまったかもしれない。でも突っ込みだしたらきりがないというのも事実。
さて、この作品についてお二方のコメントは……
石原さんは、青山作品について「素直に読めた。ニヒリズムに裏打ちされた人生の流転が非常に鮮烈に描写されていた」と絶賛。村上さんは「会話が過不足なく表現され小道具もよくそろっている。作者の視線が正確で力強かった」と評した。
う〜ん、「人生の流転」ってのは彼氏にふられたり一人暮らしを始めたことでしょうか。でもこの二人がこの作品を推したっていうのは、なんとなくわかるなぁ。だって逆に女ウケは悪いと思うもの。自分の人生までニヒルに斜め見てるくせに、男への依存度高いし、流されてるだけだし。最初から最後まで「受け」の態勢なんだよね。「自分探し」と同じで、自分の人生を変えてくれる何かを待ってるだけというか。だってラストの一行が『電車は少しもスピードをゆるめずに、誰かが待つ駅へとわたしを運んでいく。』ですよ? 誰も待ってませんよ? 逆にそういう女の子を皮肉ってる作品だとしたら上等だけどなぁ。というかこんなんでいいなら、何度も候補に挙がってる島本理生にもあげたらいいんじゃないかと思うのですが。
しかしですね、この小説の中でひとつ芥川賞攻略のポイントを発見してしまいました。
十四階のその部屋からは、東京タワーは見えるが、わたしの好きな東京都庁は見えない。