きみのいもうと(エマニュエル・ボーヴ)

きみのいもうと

きみのいもうと

やばい!ほんとに面白いよ、ボーヴ!
去年『ぼくのともだち』という自意識過剰の変な男の物語を読んでから、かなり気に入ってたものの、近くの本屋数軒まわってもこの『きみのいもうと』がなかったんですよ。ちなみにボーヴの作品で邦訳されてるのはこの二作だけ。こりゃアマゾンで買うしかないかも…と思ってたりすっかり忘れそうになってた矢先、久々に銀座に出る用事がありまして、愛する教文館にてついに発見しました。さすが教文館。スペースはそう広くはないものの、他のもっと大きな本屋になかった本を見つけられるという不思議スポット。アゴタ・クリストフの自伝を平積みしてるのを見たのもここだけだったな…。ま、基本はリアル本屋で購入したいし、でも取り寄せとかしたくないというわがままなかんじそのままに、気長に探してただけあって、見つけたときは嬉しかったです。


で、この作品。
主人公のアルマンは、お金持ちの未亡人のヒモとなって裕福な生活を送っていたが、ある日道ばたで昔の友人・リュシアンに出くわす。昔の自分そのままのようなリュシアンに上手く接することができないアルマンだが、つい彼を昼食に誘ってしまい……?


『ぼくのともだち』のヴィクトールと同じく、アルマンも世渡り下手というかなんというか、イライラするタイプの男だ。無理矢理ポジティブに捉えようとするなら「謙虚」なタイプだと言えないこともないが、言いたいことも言えずビクビクしたり勝手にキレたりと、自分のなかだけでまわってるあたり、すねを蹴飛ばしたいタイプの男でもある。しかも友人の妹に手を出して(キスしただけだけど)、それを愛人に知られてまた一文無しの生活に戻るって……。多少なりともツバメやってたんなら、もうちょっと上手く立ち回れよ、なんて説教したくもなるのである。


まぁさらりとネタバレしちゃったけど、この作品の魅力はこんな昼ドラの原作にも選ばれないような安易なストーリー展開ではない。すべてはこのアルマンというチキン野郎の、そのチキンっぷりの描写の見事さにある。これは絶対に映像にはできない。小説でしかできないこと。先述したように、昔の友だちの妹に手を出して、それをパトロンに知られて追い出され、一文無しになったと。大まかなストーリーは本当にそれだけなんですよ。なのにページをめくる手が止まらない。日常のサスペンスを極めたような、緊張感に覆われた一冊なのである。


個人的には主人公のダメっぷりがコミカルにまで昇華してた『ぼくのともだち』のほうが好みだけど、本作も本作で捨てがたい魅力がある。前作に比べて、安易なストーリーが敷いてあるからこそ、この著者の上手さが際立っているとも思えるのだ。ホント、すげーよボーヴ。なんとか他の作品もぜひ出版してほしい。のでもしちょっとでも気になった方はぜひ購入してくださいね。

ぼくのともだち

ぼくのともだち

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