エスケイプ/アブセント(絲山秋子)

エスケイプ/アブセント

エスケイプ/アブセント

絲山秋子、最新刊であります。
この人の小説ってものすごく遠目から見た何となくなカラーはわかるものの、毎回どういう題材を持ってくるかは予測できない。今年最後のこの作品も、いい意味で読者を驚かせてくれる。


主人公は、闘争と潜伏の20年から目覚めた「おれ」。いわゆる「アカ」でいまだに公安から見張られているが、40歳を過ぎてついにカタギとして妹のところで働く予定だ。仕事をはじめるまでのつかの間の自由な時間、「おれ」は気の向くまま寝台列車に乗り京都へ。変な神父と仲良くなったり風邪ひいたりしてるうちに、「あいつ」の不在が胸をかすめる……。


あけっぴろげに自由なようで実は不安で自虐めいた「おれ」の語り口が、乾いたコミカルさとシニカルさたっぷりで絲山作品らしさを堪能できる一作だ。
「不在」のない「エスケイプ」。「意味がない」時間を過ごしてしまったことへの極度の恐怖心は、現代人の心に深く根ざしてる。今自分が仕事から、もしくはその他の人間関係から「エスケイプ」したら「不在」は残るか? 自分自身のなかには多少は残るものはあるだろう。経験は財産になるし。でもなにより他者にとっての自分の「不在」こそに価値がある、そんな価値観にがんじがらめにはなっていないけど、まったく意に介してないといえば嘘になる。そこから完全に自由になることが望みではないけど、せめて今の自分の軽さはキープしておきたいものだと思った。