中庭の出来事(恩田陸)★★★★★

中庭の出来事

中庭の出来事

ブラボーーー!!!
お得意の劇中劇が効果的に駆使された、恩田陸の新刊! 物語は螺旋階段のようにぐるぐると回り続け、謎はその深みを増す。オーディションと殺人事件がマーブル模様となって物語を彩る。舞台と現実の境はどこに? すべての物語を飲み込む恩田ワールド炸裂な一作です。


★中庭のあるこじんまりとしたホテルレストランで、二人の女が対峙する。自殺とされたある「男」の死をめぐる腹の探り合いは、予想外な展開に…。

★当代きっての奇才脚本家の新作は、その女優自身の『告白』。最終審査に残った3人の女優に課されたオーディションは、ある台本を『大筋を変えずに、自分の演劇人生を踏まえて脚色せよ』というもの。台本上の一人の女は、3人の女優それぞれの人生をにじませることで、まったく異なる三人の女になる。その台本の話は、なぜか憎む女のアリバイを偽証する女優、という謎の物語だが…。

★中庭である女子大生が突然死した。直前に彼女を目撃した近隣の店の従業員は異なる証言をする。あるものは「彼女は笑っていた」と、あるものは「彼女は怒っていた」と、あるものは「彼女は泣いていた」と…。

★二人の男が、一風変わった劇場を目指して歩く。その劇場とは、廃線となった路線の駅を再利用したものらしい。道すがら、年上のほうの男が自分の過去をぽつぽつと語り始める…。

★中庭で、さる人気劇作家が、審美眼の鋭い古い女友達に新作の構想について相談する。それは、ある劇作家が殺害され、次作の主役候補であった三人の女優が容疑者となる話だが…。


ふふー。これらの話がひとつにつながっちゃうわけです。劇中劇中劇(中劇)??? もう恩田陸の独壇場。そんな恩田ワールドに身を任せるのが気持ちいい。もう風呂敷は広げっぱなしで、さあどうするんだと読者を煽りに煽る。ラストに不満足な人もいるかもしれないし、突っ込みを避けるずるさがこの作品にあるかもしれない。でもこの、物語が物語を喰う連鎖が絡み合って生み出す凄み、それをただ感じて飲み込まれながら読むのが、楽しい読み方であろうと思うのです。

一気読みできるのはわかったうえで、ドキドキしながら何度も本を閉じてため息をついてしまう。早く続きを読みたい、でも読み終えたくない、肌が泡立つこの感覚を一瞬でも長く感じていたい。もうなんだったらラストなんてどうだっていいよ!(というのはウソだけど)とまで思っちゃう、わたしにとってそういう世界を築ける、数少ない作家が恩田陸。その魅力を存分に堪能させていただいた一作でした。もう面白いとかじゃなくて、酔う?そんなかんじ?……ま、今も酒に酔ってますがそれがなにか?