さようなら、コタツ(中島京子)★★★★☆

さようなら、コタツ

さようなら、コタツ

「部屋」はその主の鏡のようだと思う。主の趣味、性格、生まれ育った環境まで雄弁に語ってくれそうだ。振り返って見る我がリビングは、とりあえず大量の本と漫画に囲まれて、大きめのコタツがでんとあって、さらによく見れば机や棚などは拾ってきたものか安物かヘタクソな手作りのものばかりで、カーテンの代わりに木目の簾を一年中かけてあるという、まさに主を語る部屋だ。


この短編集の主な舞台は「部屋」である。

これまで暮らしたどの部屋にも、鼠や恋人ならずとも、いろんな人がやってきた。そこはどこよりのくつろげる空間だけれども、意外にドラマティックな場所でもある。あの部屋で、あるいはこの部屋で、起こった出来事の記憶をたどっていくと、泣きたいような笑いたいような不思議な気持ちになる。(まえがきより)

「意外にドラマチックな場所」……そうかもしれない。だって普通は親しい人しか部屋に入れないものね。どんなシチュエーションであれ、濃密な時間が流れる場所なのかも。


好みだったのは、表題作「さようなら、コタツ」と「陶器の靴の片割れ」。「さようなら〜」は久しぶりの恋人になるかもしれないオトコの来訪に向けて、抜かりなく準備するオンナの物語。自分と違ってモテる妹の忠告を反芻しながらも、体は反対にウキウキと準備を進めている。部屋も料理も自分も完璧に。読んでるコチラとしても、ちょっと張り切り過ぎではないか期待し過ぎではないかと心配しつつも、主人公のわくわくした気持ちに素直に共感してドキドキしながら彼の来訪を待ってしまうのだ。もうひとつ、「陶器の〜」は結婚を間近に控えたオトコの物語。マリッジ・ブルーってやつですかね。相手の要望も取り入れる振りをしながらその実、自分好みの新居に仕立て上げようとする恋人にちょっと違和感を感じていたところ、昔の恋人が訪ねてくることに……! 勝手に揺れる想いってやつでしょうか。あわててペアの食器を隠したりするが、意外に目立つものを出しっぱなしなあたりが微笑ましいっす。
この二編をとくに気に入ったということは、わたし自身、誰かを迎え入れることが意外に好きなのかも。わたしは掃除嫌いなので、誰かがやってくるとなると、一日がかりで掃除しなきゃならなくて、それは面倒でしようがないのだけど、でもこの主人公たちのようにワクワクしてしまうもの。


その他の短編もいずれも好感度高くて、優しい物語です。やっぱ中島京子は好みだなぁ。