均ちゃんの失踪(中島京子)★★★★★

均ちゃんの失踪

均ちゃんの失踪

前作『ツアー1989』ではじめて中島京子の作品を読んで、これは過去の作品も全部読まねばならんと慌ててアマゾンなどで買い漁ったはいいが未だに部屋の隅に積まれたまま新刊が出てしまう、よくあるパターン。

均ちゃんはイラストレーターで、ガールフレンドが何人かいて、ふらふら疾走する癖があって、ともかくろくでもない男。その均ちゃんが失踪中に空き巣が入った。そして、三人の女が関係者として呼ばれた。
均ちゃんの行方は? 三人の女たちの恋の行方は?


近所を荒らしたプロの空き巣が唯一証拠を残したのが内田均こと「均ちゃん」の家の風呂場だった。ところが均ちゃんは失踪中。困った警察は均ちゃん宅に出入りしていた三人の女を呼んで事情を聞くことに。
一人目の女は梨和景子。中学の美術教師で、均ちゃんの元妻で彼に家を貸していた、つまり大家。彼女にとって均ちゃんは「役立たずだが冷たくはできない親戚の一種のようなものである元亭主」。
二人目の女は木村空穂。外資系製薬会社の重役秘書。本命は別にいるので均ちゃんは寂しい時にだけ会う「パートタイマー」と呼んでいる。でも本命は妻帯者。
三人目の女は片桐薫。ティーン向け雑誌の編集者。恋人だと思っていた均ちゃんに他に彼女がいたこと、別れた奥さんのうちに住んでいたことなど何も知らなかった為に、一番ショックを受けている。


米倉涼子主演ドラマが始まるか……!? と思いきや、なんだかのほほんとした空気で物語は進む。さすがに薫は空穂に対してライバル心を持ったりするものの、あっけらかんとした性格の空穂は本命の彼氏にドタキャンされた温泉旅行に景子と薫を誘ったりするのだ。しかも誘われた二人とも高級旅館に安く泊まれると知ってつい誘いにのっちゃうあたり、なんかおかしい。景子と空穂はあまり均ちゃんに執着がなかったせいでもあるが、奇妙な縁で三人は結ばれていく。


これは均ちゃんが失踪したことによる連鎖反応の物語だ。
もちろん景子や空穂にとっては直接的なものではないけど、関わりのある男が一人いなくなることが自分の人生に何の影響も与えないはずはない。いろんなかたちで三人の女の人生に新たな風が吹く。均ちゃんが失踪しなければ、ついでに空き巣が入らなければ、知り合うこともなかった三人。警察に呼ばれたおかげで久しぶりの恋を見つけた景子、均ちゃんというガス抜きを失なって本命との恋に行き詰まる空穂、呆然としながらなぜか均ちゃんの腹違いの弟でゲイの祐輔と同居することになった薫。
均ちゃんの失踪によって生まれた、新たな出会いと喪失感。それが三人の女をちょっとずつ変えていく。


本当に中島京子はセンスがいいと確信した。言葉の選び方はもちろん、何気ないエピソードまでぐいと胸をつかまれるものがある。誰の心にもある意地の悪いところやずるいところを冷静にリアルに描きながらも、この物語はどこかユーモラスですごくあったかい。


オススメです。