一瞬の風になれ 第三部 -ドン-(佐藤多佳子)★★★★★

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

これは泣きますよ。
ていうか今年は何なんですかね? 三浦しをんの『風が強く吹いている』も出てるんですよ? 「走る」スポーツ青春小説の傑作が二作も生まれてしまったってことじゃないですか。これに川島誠の『800』で、三大陸上青春モノ確定ということでいいですかね?


■第一部「イチニツイテ」

父親はもとサッカーの国体選手、兄貴はU16代表候補にも選ばれる天才選手、夫婦揃ってのマリノスサポーターという、サッカー家族に生まれた主人公・新二。しかし兄とは正反対でいつまでもヘタクソだった。そして迷いながらも高校進学と同時にサッカーから距離を置くことを決意する。
幼なじみである連もまた、新二と同じ高校に進学することに。連は天才的なスプリンターで中二のときに全国で七位という驚異的な結果をのこしながらも、気ままで練習嫌いなゆえしばらく陸上を離れていた。
連が入学したと知った陸上部は、つれない連をなんとかして入部させようと新二にもアプローチをかけてくる。連のことが心配だった新二はついつい世話を焼き、ついには自分も陸上部に入ることに……!?

この第一部はまだまだスタートライン手前。新二は陸上競技にどんどん魅せられていくものの、初心者ということもあってなかなか結果を出せない。一方の連は相変わらずの練習嫌い&団体行動嫌いで、バックレたりするして新二の怒りを買ったりするし……。


■第二部「ヨーイ」

陸上という競技に夢中になり、呆れられるほど練習に熱中する新二。マイペースながらもゆっくりとまわりと合わせるようになった天才スプリンター・連。チームの主軸である二人の成長や期待できる新入生たちの活躍がある一方で、世代交代やエースの故障など様々な不安要素を抱え、一進一退の春高陸上部。
新二がキャプテンの座を受け継いでから初めての新人戦。部員たちの集中力は高まるが、思いもかけぬトラブルが新二を襲う……。

新二と連、二人の成長がじわじわと感じられる。いつもクールで執着心のカケラもなかった連が、肉離れをおこしながらも関東大会に出ると必死に掛け合い、その<熱さ>を初めて見せた。新二は一年生のころのようにいっぱいいっぱいではなく、冷静に自分自身を見つめながら練習を詰め込んでいく。さらに兄の事故によって、自分の中にある兄への生々しい感情とぶつかるラストは胸が痛くなるのだ。


■第三部「ドン」
さて、本書です。
正直、一部、二部は、競技のシーンに緊張感というか息詰まるようなかんじが足りない気がしてたんですよ。でもあらためてこう振り返ってみると、それぞれ必死であったことは間違いないけど、集中するということがいかに難しいことであるか、よくわかるんですね。
この第三部では、ついに新二も連も三年生。スプリンターとしての成熟がピンと張る緊張感を生んで、とんでもなく素晴らしい物語になってます。


最後のインハイへ向け、新二の集中力も高まっていく。4継は1走を期待の一年生・鍵山を抜擢し、鍵山→連→桃内→新二という、過去最強メンバーとなる。しかし鍵山の個性的な性格によって、4継に不安が走るが……。


そして迎えたインハイ。連も新二も個人では最高の走りを実現する。残すは最後の4継。
『優勝しかない。 俺らが一番になるしかない。 もう、それしかない。』


ラストにしてやってくれました。息も詰まるシーンの連続。もうこれはね、読んでくれと言うしかないですね。一言一句逃さないようにじっくり読みたい反面、一刻も早くレース直前の緊張から解き放たれて走り出したい主人公の気持と同じくらい、なんとしても早く先が読みたい。そんな逆方向の二つの欲望に引き裂かれながら、心臓バクバク。
読者冥利に尽きますよ!
そして残りページを指と目で確認しながらも、「まだ終わらないで!」と願ってしまう。でも終わっちゃうんですよね。
物語がラストに向けて駆け上がる迫力が凄かったからこそ、読み終えて強烈な寂しさを感じてしまう。もうちょっと、あとちょっとだけ読みたかったなぁと。でも確かにあの「最高の一日」で終わってくれて良かったとも思うんだよね。


本当に素晴らしい作品でした。
幸せな読書タイムをいただいて、ごちそうさまです!


一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

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一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-

一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-