綿矢りさがついに!!

文藝 2006年 11月号 [雑誌]

文藝 2006年 11月号 [雑誌]

ごめんなさい……あまり特集の伊藤たかみには今のところ興味はないんですけど、
綿矢りさ芥川賞受賞第一作と称された小説が載ってたのでつい……。

芥川賞受賞第一作ですか。
コメントで今年3月に大学卒業しましたみたいなことが書いてあるので、受賞したのが大学受験前だったからほぼ4年ぶりの新作ってわけですね。
『インストール』の文庫に短編が収録されてたんですっけ?
それをのぞけば『蹴りたい背中』以来ってことで。期待は否応無しに高まります。


そんなわたしの斜めからの期待もあっさりと越えられてしまいました。
今回の「文藝」、1200円じゃ安い!
まだ綿矢りさの中編と、伊藤たかみ×山田詠美の対談しか読んでないのにお腹いっぱいです。


いやー綿矢りさ、本当にスゲーなと。
「夢を与える」
別れ話をしようとする恋人トーマをまるめ込む、幹子の戦闘態勢から物語は始まる。幹子自身の策略により幹子は妊娠し、二人は結婚する。そして産まれたのが夕子だ。ハーフであるトーマの血を濃く受け継いだ美しい夕子は、子供時代からモデルとして活躍するように。トーマの牽制もあり押さえられていた芸能活動だが、高校入学を機に夕子は大ブレイク。これだけ大人の世界と関わりながら、何故か純真さを失わない夕子にまわりの期待は高まるが……。


いいですよ。戦慄のラストに鳥肌が立ちます。順風満帆な夕子が、徐々に徐々にズレていく。違和感を感じることを放棄した夕子の心の崩壊が、なんともいえず胸を打つしひやりとする。不仲な両親を見ていたトラウマだけでは片付けられない、夕子の複雑な内面が棘のように胸に刺さる。


蹴りたい背中』とは、根本は近いかもしれないけど、全然違う。なんだろう。この選ばれた言葉の上等さ。荒々しい勢い。そう、この物語は意識されてか荒々しい。「がんばる」しかないけど、「がんばって」いるけど、徐々にズレていく夕子を誰もとめられない。気を許したはずの相手にもいつしかアイドル的コメントしか吐けなくなる、同世代の友達なんていない。どんどん追いつめられていく……。


ゾクゾクする物語でしたね。楽しかった。今年三月に大学を卒業したそうで。今後はもうちょっと頻繁に出してくれることを願います。