どちらでもいい(アゴタ・クリストフ)★★★★☆

どちらでもいい

どちらでもいい

悪童日記』三部作のアゴタ・クリストフ、初の短編集。といっても、過去のノートや書き付けのなかで埋もれていた習作から編集者が選んで、短編集というかたちで出版したものであるらしい。なんかタイトルの『どうでもいい』が皮肉効いてます。
でもねーさすがな出来なんですよ。こんな才能ある人が寡作だということがあらためて悲しくなるくらいに、冴えてます。あの三部作に繋がるような、取り戻せない場所や時代への絶望的な郷愁を感じる作品もあり、ちょっと意外だが家庭内での微妙な関係性をユーモラスに描いた作品もあり。満足度の高い一冊でした。
たしかにあの三部作ほどのインパクトはないものの、でもずっと読み続けていたかったと思うくらいにこのショートショート集は魅力的。クリストフらしい、無機質ささえ感じるシンプルな文章が、日常のなかの小さなドラマ、小さな心の揺らぎを繊細に映し出す。もっともっと読みたい。
一番好きだったのは家族モノかなぁ。例えば「ホームディナー」。夫が妻のバースデーパーティーを自宅で開こうと張り切るのだが……ま、そうなるわな。リアルな<女の視点>を感じさせる作品。こういう作品をクリストフが書くというのが意外だった。「製品の売れ行き」もまた理想と現実の狭間で苦しむ男の姿が、突き放された視点から描かれていて滑稽だ。この二作品のように、「男」という生き物を冷静にシニカルに描き出すような作品も、この人は上手いのだなぁ。
未読の『昨日』も近いうちに読んでみたい。


※三部作とは「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」……傑作です!!

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)


激動の人生をどこまでもシンプルに描かれた自伝「文盲」も超オススメ!

文盲 アゴタ・クリストフ自伝

文盲 アゴタ・クリストフ自伝