海の鳥・空の魚 (角川文庫)(鷺沢萠)★★★★☆

海の鳥・空の魚 (角川文庫)

海の鳥・空の魚 (角川文庫)


出会い、別れ、再会、すれ違い……人間同士のさまざまなつながりの様子がビビッドに描かれたショートショート
上手いですねぇ、本当に。この短編集には、数えきれないほどたくさんの感情が詰め込まれていて、とても一口にはその感想を言い表せない。ただこの人の作風の広さに驚く。乾いた印象さえ受ける恋の結末をさらりと描いたものもあれば、重松清ばりのうっかりすると泣いちゃうような家族モノまで。これが初期の作品なのだから、ますます未読本を読むのが楽しみになる。


この解説は著者の友人でもあった群ようこ。これはもちろん著者の生前に書かれたものだが、今読むと切なくなる。

彼女は苦労や悩みが顔に出ていないから、お嬢さん育ちで、のほほんと生きてきて、ふんふんと鼻歌まじりに小説を書いていると思っている人もいるようだ。しかしまだ二十四歳の彼女の心のなかには、たくさんの痛みが隠されている。それは同年輩の人の何倍もの蓄積である。いつも明るくて元気なよい子だから、余計、今まで彼女がぶちあたった、いろいろな出来事を想像すると、おねえちゃんとしては、
「よくぞ、ここまで、ぐれもせずにいい子に育ってくれた」
といいたくなる。
(中略)
きっとこれからも彼女は壁にぶつかって、勢いよく壁をぶちぬいて、いい作品を書いていくに違いないけれど、プライベートな部分でも彼女自身が本当に幸せだと思えるような生活が送れるように、おねえちゃんは東京の片隅で、ひっそりと願っているのである。

作品を読めばわかるけど、この人はめちゃめちゃ繊細で傷つきやすくて、でもそれを作品に昇華させる強さもあるし、自分の弱さを隠すだけの社交性もあっただろう。でもそんな対外的な強ささえも自身を傷つけていたのかもしれない。そう思うと悲しくなる。今さらながらめちゃめちゃ興味引かれています。エッセイも含め、早く未読本を読みたいです。