オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史(パトリック・マシアス/町山智浩・編・訳)★★★★☆

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

自らディープなオタクであるアメリカ人ライターによる、アメリカにおけるオタク史と様々な考察の詰まった読み応えたっぷりな一冊。

★『セーラームーン』に“女性蔑視”バッシング! ★『ヤマト』の大和魂が骨抜きに! ★『ウルトラセブン』は吹替でコメディに改悪! ★『キカイダー』がハワイで大人気! ★アメリカではガンダムといえばW! ★飯島真理は今もカルチャー・ショック!★ YAOIはすでに英語! ★大学のホールに8mのゴジラが屹立! ★『ダーティベア』が独自異常進化! ★コスプレ写真に萌えるオタク専門出会い系!

全米で爆発する日本製オタク・カルチャー、その知られざる裏事情を奥の奥まで大公開。アメリカは萌えているか?!
アメリカン・オタクの世界にようこそ

この帯を見てもらえばわかると思うけど、かなり濃いです。
特撮ものも別に興味ないしガンダムエヴァも見てないわたしからしたら、ついて行けないくらいに。
でもねー、これが面白いんですよ。


ついていけるネタからひとつ。
セーラームーン』についてカナダのある大学教授が、このアニメはセクシーすぎるだけでなく、女性蔑視であると発言する。
「不快なことに、セーラー戦士たちはいつも敵に対してまったく歯が立たないのだ。結局は男性であるタキシード仮面に助けられているのに、どうして彼女たちが女性の強さのシンボルになるんだ?」
これに対して著者はバッサリ。
『この大学教授、日本みたいな男尊女卑の国のマンガに何を期待しているんだ?』
まったくその通りですねw  マンガに道義を求める方がおかしい。だったら「なぜセーラームーンが人気なのか」を研究するほうが有意義な気がします。


この本が面白いのは、アメリカに流入した日本の文化がどのように受け止められているか、をフラットな視点でレポートされてるからなんですね。
日本のマンガって基本的に何でもアリで、アメリカのモラルとは真っ向からぶつかるかたちになる。この本を読んでいろいろネットで情報を集めてみたのだけど、やっぱ日本のマンガはアメリカに限らず他の国にとってはタブーであることが多いらしい。例えば「ワンピース」ではヘビースモーカーなサンジの煙草を別のもので代用しているらしいし、日本のマンガではないけど「トムとジェリー」の喫煙シーンがイギリスでカットになったってニュースも最近ありましたね。「セーラームーン」も太もも出してるのでイスラム圏ではNGとのこと。この本で知ったがアメリカでは『ピーチガール』も騒動に発展しそうになったらしい。『ピーチガール』を借りて来た少女の両親がマンガの内容にショックを受け、TV局に通報(?)、TV局が出版社を攻撃したとのこと。そんなショッキングな内容だったっけ? たまに立ち読みしてたくらいなのであまり覚えてないけど。ま、新條まゆとかが向こうで発売されないことを祈ります(もうされてたりして)W

セックス描写のある少女マンガは『ピーチガール』だけではない。それどころか、日本の少女マンガのセックス描写はここ数年で過激にエスカレートし、2005年にはほとんどエロマンガ雑誌と見分けがつかなくなった(現在はいくぶん沈静化したが)。それとは正反対に、アメリカの中学高校ではキリスト教保守によって、結婚まで一切のセックスをしないと誓わせる絶対禁欲主義教育が推進されている。アメリカのモラル保守層と日本のマンガ文化はいつまで衝突せずにいられるか。

「ほとんどエロマンガ雑誌と見分けがつかなくなった」ていうのは小学館系の「少女コミック」とか「Cheese!」とかですね(参照→http://tiyu.to/permalink.cgi?file=news/06_02_14)。「セカチュー」系のあざとい小説を連発してるのも同じ小学館な訳で、ほんと売れりゃいーのかよ的な出版社であります。ただ大阪府で少女漫画も有害図書認定されることになってからは(http://www.gamenews.ne.jp/archives/2006/03/post_654.html)落ち着いたんでしょうか。そうとは思えませんが(→「少女コミック」最新号http://www.sho-comi.com/index_saishin.html)。
少女漫画の大半は恋愛ものだから、その過程としてセックスシーンを入れるのは別にいいと思うんです。ただ小学館系のはストーリー無茶苦茶でセックスシーンを入れることのほうが重要視されていて、それが「少女コミック」という名で売られていることが問題なんでしょうね。マンガとしてのクオリティーは最悪ですし。本来恋愛マンガだと、セックスシーンはできるだけ少なく、むしろそこまでどれだけ引っ張れるかが勝負ですから。ただ中高生の男の子だと、アダルトビデオとかエロ本をなんとかして入手するでしょ? それはできない女の子たちのはけ口なのかな?…と単純には攻められないとも思うんですけど。ま、それは日本で育ったわたしの考えで、キリスト教国やイスラム教国では、小学館系の少女漫画は完全にポルノで、もしそれが子供たちの手に取りやすいところにおかれるなんて知ったら訴訟ものですわナ。


そして「やおい」が確実にアメリカのマーケットでも注目されていることに驚きました。関連書や関連記事なんかを読んで、なぜ「やおい」が好きな女の子が存在するのか、てことは理屈では理解してても感情的に理解できなかったわたしにとっては興味深いことでした。どんな文化であっても一定数の腐女子はいるのか。でもアメリカアマゾンのマンガのトップセラー(http://www.amazon.com/gp/bestsellers/books/4367/ref=pd_ts_c_th_head/002-1178866-0492046)でも、確実にトップ100のなかにボーイズラブが入ってますね。


ちなみにアメリカアマゾンのマンガのトップセラーで見る限りでは(現時点で)、「NARUTO」と「DEATH NOTE」が人気を二分してて、次に「フルーツバスケット」「ワンピース」「鋼の錬金術師」がつけてるかんじですね。「DEATH NOTE」がアメリカでも人気を博したのは意外です。だって「神」はいないって設定でひとりの人間が「神」に成り上がろうとする物語だもの。キリスト教圏では反発があると思ったのですが、マンガのパワーは侮れないですね。連載当初から読んでる「NARUTO」はわたしのなかではもう終わったマンガなのですが、アメリカでは人気高いですね。忍者だから?


話はそれまくってますが。
本書は、アメリカに輸入された日本文化と、それに対するアメリカ人の反応をきっちり押さえてある。日米文化比較論として真面目にかつ楽しんで読めます。日本のアニメや特撮がいかにゆがめられてアメリカで紹介されているか。Puffyアメリカで成功した理由とは。なぜ「リング」アメリカで受けたか。「萠え」とモラルの葛藤……など、非オタな人間でも存分に楽しめる。一方でオタクを満足させるネタも多数あるっぽいのだけど(『キル・ビル』の元ネタは『子連れ狼』だとか、『宇宙からのメッセージ』ネタとか)、わたしにはよくわからなかったのですが……。でも面白かったんです。
こんな身近な文化比較論もなかなかないんで、ぜひオススメです♪