愛してる (角川文庫)(鷺沢萠)★★★★☆

愛してる (角川文庫)

愛してる (角川文庫)

文庫版『ウェルカム・ホーム!』で遅れてやって来た鷺沢ブーム。代表作が何かも知らない状態だったので、とりあえず読んだことがある人にオススメを教えてもらおうと、図々しくも「教えてください」とこのブログで呼びかけてみました。そこでギドさん、ボブさんという親切な方が反応してくださったので、ぜひお二人のオススメを読もう!と本屋に向かったわけですが、行きつけの本屋には置いてなくてガックリ。でも今日、やっと時間があいて近所のブックオフに行ってみたところ、ありましたとも。良かったー。今日は2冊いっぺんに読んでしまいました。


古い作品から読もうと、まずはボブさんのオススメ『愛してる』。
しかしものすごいひねりのないタイトルだな。これは買ったあと近くのコーヒー屋で読み始めたのだけど、ブックオフだから当然カバーがかかってないので、極力表紙がまわりに見えないように工夫して読みました(笑)。
しかしまー、これが良かった。この作品を書いたとき作者が21歳だったというから、さらに驚く。

いつだって吐瀉物の臭いのする“ファッサード”に毎夜集まる仲間たち。いい奴に、とんでもない奴に……。ただ、彼らは皆、酔うことにも愛することにもいつだって熱かった。
夜の喧噪と真昼の沈黙をとどめた作品集。

物語の焦点は全然違うのだけど、山田詠美の初期の連作短編集を思い出した。黒人の集まるクラブ“ムゲン”を舞台にした連作短編集『フリーク・ショウ』で描かれた夜の熱さ、プラスのちに角田光代の初期の作品で描かれる若者の閉塞感や虚無感みたいなものが、上手くミックスされたような作品であると思う。


タイトルからは想像できないが、これは青春群像劇だ。
特徴的なのは、視点となる主人公の女について驚くほど読者に情報を与えていないということだろうか。主人公も恋で傷ついたり、孤独に苦しんでたりしているようなのだが、それには具体的な説明はほとんどない。ただひたすら、“ファッサード”に出入りする仲間たちの変化する関係が、冷静な視点で描かれる。

どこまでも酔っぱらっちゃって何かを吹き飛ばそうとする夜の「熱さ」と、深い孤独に苦しむ昼間の「冷たさ」。仲間のつながりを求める「熱さ」と、ここにとどまっていてはいけないという「冷たい」シグナルを感じながらも抜け出せない弱さ。


解説で北方謙三氏も絶賛しているが、言葉の選び方がハンパない。何度も比較して申しわけないが、山田詠美と同じくらいのレベルだと思う(ちなみにこれは山田詠美の大ファンであるわたしにとっては最上級ランクの褒め言葉です)。本当に上手いと思いました。


個人的には二作目ですが、今まで読んでなかったことを本当に後悔してます。ものすごく好みです。せめて全作品読むことで償いとしたいです(←意味不明)。