トカジノフ (角川文庫)(戸梶圭太)★★★★

トカジノフ (角川文庫)

トカジノフ (角川文庫)

今月の角川文庫の新刊で。意外にもトカジの短編集を読むのは、これが初めてだ。
「本屋を浸食する激安な涙と感動にトカジノフ大爆発!」……この帯のコメントはいいですねえw。山下書店の古川努氏のコメントらしい。ベストセラーに名を連ねるやっすい小学館系お涙小説の対極にあるのは、ドストエフスキーでもなくジョイスでもなくクリスティでもなくクレストブックスでもなく…………やっぱトカジでしょ。

初めてヒットマンの役目を仰せつかったチンピラが、標的を間違えたために起こる大チェイスの結末とは? 男に捨てられた三十路前のOLの車を十代ヤンキー娘がカージャック。極限状態で勃発するバトルの行方は?……強烈な殺笑能力を秘めた8発の弾丸(ショートストーリー)。イカした文体で、イカれた男と女共を徹底描破! フヌケな現代をこらしめる比類なきイリーガル文学! ハイブローなトカジ波(ウェーブ)が、あなたを小説の虜にするーー。

妙にテンションの高い、裏表紙のこの紹介文もどうかとは思うが……。上手いこと書こうとして軽くすべり気味なのが、個人的にはツボ。


長編が面白くても、短編には向かない作家もいる。短編にはどんなジャンルであってもキレの良さが求められるからだ。でもトカジは心配御無用。らしさはそのままに、ちゃんと短編向きな瞬発力のあるストーリー展開で、ぐいぐい読ませる。人間の本性、普段は隠し持つその低俗さを、赤裸々にかつ笑い飛ばして書ける作家は他にはいない。情けなさ全開のクライムストーリーは独壇場。ホント、安心して読めるし、読み始めたら毎回止まらないんだよねぇ。


巻末情報によれば9月には単行本で『シルクロード少年』、文庫で『トカジャンゴ』が出るらしい。どちらも未読なので楽しみ!