きみがくれたぼくの星空(ロレンツォ・リカルツィ)★★★★

きみがくれたぼくの星空
ロレンツォ・リカルツィ著 / 泉 典子訳
河出書房新社 (2006.6)
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子供もなく妻にも先立たれ独り身の「ぼく」ことトンマーゾ・ペレツは、脳血栓による半身不随で老人ホームに入ることに。もと研究者で若い頃から気難しく皮肉屋であった「ぼく」はホームに入居して以降さらにその皮肉っぷりに磨きがかかり、職員からは「ミスタークソッタレ」と呼ばれるほどだ(しょっちゅう職員に向かって「クソッタレ」と吐き捨ててるからなのだが)。気の利かない介護人たちにイライラし、自分を幼児扱いするボランティアのババァに暴言を吐く。そんな「ぼく」を支えていたのは、同じ入居者の女性エレナの存在だった。二人は夫婦のように寄り添いながら、お互い素直に愛情を示すことができずにいた……。

著者は心理学者であるとともに、自身で老人ホームを運営していたとあって、この物語の大部分の舞台である老人ホームの雰囲気や、面会に来る家族の描写などのリアリティは圧倒的だ。<老い>によって抑制の外れた、生々しい感情がぶつかりあう様を描くエピソードは秀悦。シニカルな「ぼく」を視点とすることによって、それらを悲観的でも楽観的でもなくありのままに受け入れ、ユーモラスに描かれる。またエレナとの恋を自覚することによって、どんどん前向きになる「ぼく」の豹変ぶりも、人間そのものがむき出しになっていて目を背けたくなるような生々しさがある。本書で描かれるのは80歳を過ぎてなお成長する人間の姿は、悲しさも含みながらも心強くてハートフルなのだ。


と気持よく読み終えたところなのに、訳者(泉典子)あとがきがとんでもない不快感を残してくれた。

ところで、日本ではいま、あたかも全員が泣きたがっているかのように、涙がブームなのだそうだ。ブームに逆らって泣くまいと思っても、この本はぜったいに無理だ。泣かなかったら人間じゃないし、マンモスでも、シラミでもない。

ポカンとしてしまった。とりあえずわたしは人間でもマンモスでもシラミでもないらしい。ていうかこの文脈では泣けたらそれはいい作品てことになるようだ。「セカチュー」あたりをバカにしながらも、この物語をそのレベルに引き下げていることに気付かないってのはイタイなぁ。あとがき冒頭の「本書は究極のラブストーリーである」という一文も力が抜けます。訳者がこの一冊の中で一番頭の悪そうな発言をしてるようなw。ていうか、この物語の主軸はラブストーリーか?……違うでしょ。老人だからこそ生々しい、感情の揺れを繊細に描いたものじゃないの? う〜ん、そこらへんの読み方の違いが翻訳にも反映されているようで、なんか納得がいかない。ついでに言えば装丁も邦題も、ちょっと原作からズレているように思う。
せっかく気持良く読み終えたのになぁ、と残念な気持が残った。