七人のおば (創元推理文庫)(パット・マガー)★★★★★

七人のおば (創元推理文庫)

七人のおば (創元推理文庫)

昨日の今日ですがさっそくこの作家の作品を買えるだけ買ってきましたよ。ていっても書店には二冊しかなかったけど。いやでも二日続けてこの人の作品が読めるなんて!と浮かれそうなくらいに、ついでに明日は三冊目いっちゃおうかしらなんてワクワクするほどに、気に入っちゃったなぁ。
結婚してイギリスにやって来たばかりのサリーはある日、アメリカの地元の友人からきた手紙を読んで驚愕する。手紙には「あなたのおばさんが夫を殺して自殺した」と書かれていたのである。友人はサリーはこのニュースを知っていると思い込んだ上でのお悔やみの手紙だったため、どのおばが夫を殺したのか書かれてないのだが、サリーには七人ものおばがいるのだ。サリーは混乱しながらも国際電話でこんなこと聞きたくないし、だいたいどのおばに電話をかけたらいいのかもわからないので、翌日にロンドンの大きな図書館でアメリカの新聞を調べることに。眠れないサリーは、夫に叔母たちと暮らした日々の想い出を語り始める……。
いや〜「四人の女」と同じくらい、もしくはそれ以上に面白かった! ていうかこの七人のおば、強烈過ぎ! 絶対に親戚になりたくない(笑)。
姉妹の母親的役割で、とにかく結婚すればすべての問題が解決されると信じている保守的な長女クララ。オールドミス返上で念願の結婚を果たすも妹に横恋慕され苦しむテッシー。もとの夫と離婚して新たな結婚生活に踏み切るも、子供は甘やかすばかりでちっともしつけができないアグネス。義母との関係に悩みアルコール中毒になったイーディス。セックスへの異常な恐怖心から男を拒み続けるモリー。美人で男好き、姉の夫と本気の恋に落ちて家族を大混乱に陥れるもその後も身内の男に手を出すドリス。資産家であるクララの夫に甘やかされたせいで、とんでもない浪費家として夫を苦しめるジュディ。
どうですかこのラインナップ。親戚は嫌だけど、ものすごい遠縁でこの姉妹の情報が入ってくるならいいかもな、と思えるくらいのゴシップだらけの楽しい(?)一家なわけです。両親が早くに亡くなっているため、クララとその夫フランキーの家庭が姉妹にとっての「実家」になり、女の一人暮らしなんてクララが許さないので、みんな同居してるわけなんですよね。結婚してもすぐに出戻ったりするし。誰か猛獣使いを呼んできてください。幸か不幸か、いや不幸なことにサリーは幼い頃に両親を事故で亡くし、父親の妹であるこのクララのもとへ引き取られたというわけだ。
サリーが唯一まともなんだよね。だってこんだけ問題だらけの女たちと、その女たちの圧政に苦しむ男たちに囲まれて、よくもまぁ素直に育ってくれたもんだ。もー次から次へのトラブル発生地震発生竜巻発生でめまぐるしく、ぶっちゃけこの物語の基本である「どのおばが殺人者となったのか?」という謎なんてぜーんぜん忘れちゃっておりましたわ。解き明かされる真実は「あぁなるほど!」と思うのだけど、それ以上に七人のおばたちのエピソードが強烈すぎて……。
この作家はキャラ造形が抜群に上手いね。この七人姉妹はどれもクセがあるのでわかりやすいといえばわかりやすい性格なのだけど、生彩溢れるキャラ描写にぐいぐい引き込まれる。実際にいたら友達になりたくないキャラばかりなのに、何故か愛着が持てる。それだけ人間味たっぷりに描かれているのだ。マガー自身がそれぞれのキャラに愛情を持って描いてるからではないかと思う。しかしまぁ、こんだけ方向性の違うユニークさを持った七人が姉妹って! 親の顔が見たいわ(笑)。
ホンット面白かった。サイコーです。「四人の女」のほうが登場人物が少ないだけあってそれぞれに深く踏み込んであったし全体的なバランスは「七人〜」より良かったように思うけど、しかししかし、この「七人〜」の強烈さはたまりません。まったく性格の異なる七人のおばプラス一人の姪という八人の女の、それぞれの人生の濃い部分がぎゅぎゅっと凝縮されてるんだから。もうノンストップです。昨日に続いて今日も感謝。この作家に出会えて良かったわ〜。


作品には関係しませんが、『四人の女』『七人のおば』には文庫巻末に「文庫データ・ボックス」というコーナーがあって、その作家にまつわる海外の出版事情や関連本などを紹介していてとても興味深いのだが、これは一時期だけのものなのだろうか? 最近の創元推理文庫にはないよね。でもたぶん同じくらいの年代のヒラリー・ウォー創元推理文庫にもなかったと思うなぁ。あ、でもウォーは再販か。かなり限定された時期だけやってたサービスなのかなぁ。こんなのあるの知らなかったし、海外のしかも当時の出版ニュースなんて知りようもないから、ついつい食い付いちゃう。まぁ売り上げへの貢献はなさそうだけど、でも読者的には嬉しいコーナーだ。もう復活しないのかなぁ。