四人の女 (創元推理文庫 (164‐3))(パット・マガー)★★★★★

四人の女 (創元推理文庫 (164‐3))

四人の女 (創元推理文庫 (164‐3))

この本を買うきっかけとなったのは、東京創元社のオンラインマガジンのコンテンツのひとつである、桜庭一樹の読書日記である。これまでの読書日記を読んでる限り、この人のすすめる作品はアタリが多い。というか何気に手に取った作品やちょうど気になっていた作家の作品が紹介されていることもままあって、なんとなく読書の波長が合う気がしたのかもしれない(アゴタ・クリストフとか、ジョナサン・キャロルとか)。そういうわけで、初挑戦。
で、大正解。面白すぎてビックリしました。
主な登場人物はたった5人。人気コラムニストのラリー、ラリーの素顔を知る貞淑な前妻シャノン、離婚と引き換えに多額の慰謝料を吹っかけようとする現在の妻クレア、皮肉屋かつ芸術家肌でラリーの仕事上のパートナーであり年上の愛人でもあるマギー、大新聞社のオーナーの娘でありラリーに結婚を迫る若い娘ディー。引っ越したマンションでバルコニーの柵が壊れかかってることを知ったラリーは、事故に見せかけてある女を殺そうと思い立つ。そして四人の女が、新居でのディナーに招かれた……。ラリーが殺そうとしているのは誰なのか!? 辛辣な皮肉の飛び交う夜、そしてそれぞれの女を視点にしたラリーとの過去が交互に描かれる、なんともスリリングで鮮やかなサスペンス。
4人の女たちのキャラクター、そしてラリーとの関係にまつわるエピソードが生彩あふれて素晴らしいんです。タイプはまったく違えどそれぞれに魅力的、ただラリーの立場から見れば殺せるもんなら全員殺したいほどに、その関係に複雑なものが絡む。でもその問題を引き起こしたのはラリー自身だ。「貧困な移民」という自分の出自を呪い、どこまでも権力や名声に媚を売って登り詰めた人生。彼のなかの葛藤こそが、この物語の核である。
ぶっちゃけ、物語を半分まで行かなくても、ラリーが誰を殺したいのかは何となくわかった。でもページをめくる手は止まらないのだ。むしろ加速しながらラストまで突っ走る。シンプルながらもドラマティックな展開に酔って酔って、そして見事なまでに鮮やかな幕切れ。ため息です。
はー嬉しい。これからこの人の未読本が読めるんだ。出会えて良かったです。