黒いカクテル (創元推理文庫)(ジョナサン・キャロル)★★★★

オンライン書店ビーケーワン:黒いカクテル
えぇ、またジョナサン・キャロルですよ。短編集としては『パニックの手』に続いて二作目。というか、キャロルの短編集はこの二冊しか出てないようなんですが。もう行きつけの本屋も準・行きつけの本屋にもわたしの未読の長編がないので、今月再販になったこの短編集を読むことに。解説は桜庭一樹
ジョナサン・キャロルはもうハズレはないと確信してるので安心して読めるのだが……。一番はじめにもうひとつの短編集『パニックの手』を読んで惚れ込み、それから『月の骨』『蜂の巣にキス』『死者の書』『沈黙のあと』という長編を読んだ。そして今日、この『黒いカクテル』を読むと、やはり長編の完成度の高さに較べるとやや短編はその出来にばらつきが感じられる……というのが正直な感想だ。どれも間違いなくその発想は素晴らしいのだけど、それが枚数に収まってない気がするのだ。『パニックの手』でもそういう作品はあったものの、一方で鮮やかなショートショートがあったりして、この著者への興味を喚起させるラインナップであったように思う。
じゃぁ本書が面白くないかといえばそんなことはない。面白いですよ。一番好きなのは最初に収められている「熊の口」。これは金持ちに憧れる男が大金を手にしてしまい、違う意味でマネーの世界に入ってしまうというファンタジー短編。これはキレがいいです。あとは意外なトラップを仕掛ける「フローリアン」、家自身が感情を表現してしまうというSF「いっときの喝」もいい。短編よりショートショートに近い分量のほうが、上手いと感じる作品が多い気がする。
長編でも短編でもとにかく出だしの上手い作家。読みたいと思わせる。そしてどれもその出だしを越える意外性に満ちた展開が待っている。なんとなく浮いたラストで終わる短編も確かにあるのだが、でもそれでも躊躇なく次の作品を読みたくなる。中毒性の高い作家だ。
さてもう残りはアマゾンにでも頼むしかないかな。