樹上のゆりかご (C・NOVELSファンタジア)(荻原規子)★★★★

樹上のゆりかご (C・NOVELSファンタジア)

樹上のゆりかご (C・NOVELSファンタジア)

西の善き魔女』も<勾玉>三部作も素晴らしかったので、さて次は何を読もうかなぁと思っていたところ、ちょうど本書がノベル化されたので渡りに船とばかりに飛びつく。
舞台は東京の西のはしにある辰川高校。有名な進学校であるが、学内のイベントに異常なまでに力を入れ、男子中心の古風な習わしのある、一風変わった学校なのだ。そこに通う主人公、上田ひろみは友人の誘いをきっかけに生徒会の活動をサポートするようになる。ところが最大のイベント・辰高祭を前にして、生徒会あてに脅迫状が届き始め、時を同じくして校内で不振な事故が相次ぐ……。
この作品に出てくる学校行事のほとんどは著者自身が体験したことらしいが、まさかこの習わしもあったのだろうか。女子には重いものは持たせず、掃除もさせないとかいう……。女子をお客様扱い、あくまで「俺らの」学校なんだぜ、みたいな? 物語の中でひろみたちが話してるように、女の子はわざわざそれに楯ついたりしない、それもわかる。男は適当に立ててやりたいようにやらせときゃいいのよ……っておい、高校で男女の機微を学ぶな。ま、でも考えようによっちゃ勉強より大事か。ま、威張られたうえに掃除させられるよりマシだけども、でも腹立たしいよねぇ? 掃除するくらいで威張るな。あ、でも掃除しただけで威張る男は多いな。なにこの学校? 恋愛予備校? なんて色んな方向に頭が飛んでしまうくらいに、鋭く男と女の本質を突く設定で、それだけでも楽しい。
一応、大まかなストーリーはミステリに分類されるものだろうけど、正直ミステリとして読むと弱い。「え? そのまま行っちゃうの?」ってくらいストレートな展開だもの。ある意味、読者を裏切る展開ではありますが。事件そのものも、はた迷惑この上ないし。
じゃあこの物語の魅力は何か。やっぱまずは既視感ばりばりなエピソードを読みながら、自分自身の「あのころ」を思い出しちゃうことでしょうか。いつも一緒にいるから一番に仲がいいってわけでもない微妙な友人関係。興味がないわけじゃないけど今一歩踏み出すほど必要とはしてない恋愛。なぜあの頃はあんなに元気だったのかと不思議に思う、体育祭前の徹夜続きの日々。10年後のわたしは仕事で一晩徹夜しただけでボロボロだよ。
そしてやっぱ最大の魅力は、荻原作品すべてに通じるけど、主人公の存在だと思う。目立つ子じゃないし、強い子でもない。他の女の子と同じように、日々いろんなことに影響を受けて悩んでる。でも、きちんと考えるのだ。何となく、とか、まわりに合わせて、ということがない。ちゃんと考えてゆっくり答えを出す、そういう高校生でありたかったような気がする。
そしてそんな主人公・ひろみのまわりの人間関係も興味深い。ひろみの親友で中性的な少女・夢乃、いかにもエリートタイプの生徒会長・鳴海、ひろみへの恋心を隠そうともしない加藤クン、精神年齢は中学でストップ?な夏郎、謎だらけの美少女・有理。事件抜きに、もしくは事件をきっかけに、それぞれが見せる素顔はとても愛しいのだ。
楽しかったです。


さて未読は「風神秘抄」と「これは王国のかぎ」だけになっちゃったかしら? 「風神秘抄」も待てばノベルズになるだろうけど、ハードカバーで読みたいなぁ。