女たちは二度遊ぶ(吉田修一/角川書店)★★★★★

女たちは二度遊ぶ

女たちは二度遊ぶ

ちょいとしばらく読書から離れていたので、リハビリ的な気分でさくっと読めそうな本をピックアップ。……けどちょっと後悔。もっと読書脳が活性しているときに読みたかったかも。だってやっぱ、吉田修一はすごいよ。上手いっす。


ふとしたきっかけで部屋に転がり込んできたはいいが、家事はおろか外出も一切しない「どしゃぶりの女」。15万しかなければ15万の生活をし、100万あれば100万の生活をする「自己破産の女」。がらっパチだが家事は完璧にこなす「殺したい女」。始終泣いてばかりいる「泣かない女」。会社の中でも変人として扱われている「ゴシップ雑誌を読む女」。……などなど、様々な女を描いた11の短編が収められている。


何が凄いって、会話シーンのリアルさといったら!
例えば「CMの女」のワンシーン。大学生の「ぼく」は、バイト仲間でこっそり片思いしているリンちゃんとある日、わざわざ同じ電車に乗って帰っていた。そこでふいにリンちゃんは、他のあるバイトの男の子について話し始める。

 「そう? 私はほんとにあの手のタイプは苦手」
 ぼくが返事をしないので、彼女は、「……うん。ほんとに苦手」と、もう一度繰り返し、今度は大きく肯いた。
 電車は自由が丘駅を出て、ゆっくりと渋谷のほうへ向かっていた。空いた車内では吊るされたポスターだけが目立つ。
 「でもさ、ああいう人が、結局なんていうか……」
 大物俳優の離婚を伝える週刊誌のポスターを眺めていると、彼女がそう声をかけてきた。
 「きっと、ああいう人が、人の上に立つのよねぇ。人の上に立って、ああいう風にはなりたくないって思ってる人を、自由に使えるようになるのよねぇ」
 正直、彼女が何を言いたいのか、判然としなかったが、何となく伝わるところがあって肯いた。

この車内のシーンはその後も続くのだけど、ここのところの会話がすごくいいんだよね。本当に何気ない会話なんだけど、女の話し方であったり、男の考え方であったり、二人の関係性まですべてがわかっちゃう。その場の空気まで伝わるような、繊細さとドラマティックさが詰まった、すごくいいシーンだと思う。


帯に「女の生態と男の心理をリアルに描く」と書かれているが、本当にそのとおり。わたしは女だから、わりと「男の心理」の部分をかなり興味深く読んだのだけど、よくよく読んでみると、女という生き物への観察眼の鋭さに驚かされる。わたしはもちろんここに収められている11人の女たちの行動やその心理はなんとなく理解出来るのだけど、主人公である男たちにとっては不可解なのだ。ありがちな物語のなかで吉田修一は、女の心理に踏み入ること無く、男にとって不可解な部分の輪郭だけをクリアにする。そして読み手であるわたしは、主人公の男たちの視点を通して「女」を見ることで、男にとって不可解な「女」の行動は、実際のところ「女」自身は何も考えずに行動している部分だと気付くのである。まさに生態? というのもわたしが女であるゆえの読み方だけど。男の人が読んだらどうなんだろう。ひたすら共感できるのかも。

つまりは、男から見て不可解な女の生態を繊細に描いた作品なわけですね。それゆえに、男が読んでも女が読んでも、きっと面白いと思います。わたしももう一度読み返したい。